症状別漢方紹介

湿気に弱い胃腸機能《NaturalLife78_’17.7》

飲食物の消化や栄養の吸収に関わる内臓というと胃や小腸,大腸が思い浮かびます。漢方ではこういった消化吸収を取り仕切る部署があると想定し,それは脾臓(ひぞう)(単に脾(ひ)と呼ぶことが多い)であると考えました。現代医学でいう脾臓は,左の上腹部にあり,造血や免疫に関わっています。つまり現代医学とは異なる認識ですが,漢方で「脾を補う」といえば,消化吸収機能を高めることを意味します。

梅雨時から夏にかけて湿度の高い状態が続きます。それとともに体はだるく,食欲が損なわれる方が増加します。こんなときの食事はさっぱりとしたものや冷たいものが好まれます。

しかし注意していただきたいのは,胃腸の働きは,過剰な冷えや水気に犯されると動きが鈍くなり,消化吸収がうまく行かなくなるということです。そうなると,だるさは悪化し,腹痛や下痢,吐き気などを催すこともあります。

漢方の先哲が残した言葉に「脾は燥を好み,湿を嫌う」という経験則があります。湿気が胃腸に溜まった状態は「湿困脾胃(しつこんひい)」と呼ばれ,利水作用や胃腸機能を促進する作用を有する処方が用いられます。代表的な処方に平胃散(へいいさん)や藿香正気散(かっこうしょうきさん)があります。また食欲不振が著しい場合には,麦芽(ばくが)や山楂子(さんざし)などの消化を助ける生薬を加えた加味平胃散(かみへいいさん)も役立ちます。

暑い季節に体に熱がこもり,ほてりや発汗があるときには体を冷やすことは必要な措置です。夏の野菜や果物は体を冷やすと言われますが,これらを利用することは理にかなったことです。ただ,過剰な冷えや水気の原因になることを防ぐためには,温かくして食べたり,生食する場合には冷やしすぎない,あるいはショウガやネギなどの薬味をうまく利用することが有効です。薬味の辛みは体を温め,胃腸の働きを促進します。

またよく噛むことも重要です。唾液にはアミラーゼという消化酵素が含まれていることは学校で習ったかと思います。口の中からすでに消化は始まっています。食べたものを細かくし,温度を適え,そして唾液によって消化が始まり,さらには飲み込みやすくなります。口の役割をきちんと果たしてから胃へ送ってあげることが胃腸を助けることになります。

この季節,とかく冷飲食を選択しがちですが,体調不良を感じている方は,胃腸の調子に配慮した食べ方を考えてみて下さい。