漢方日記漢方の考え方
起立性調節障害と陰陽《NaturalLife140_2025年2月》
病院で起立性調節障害と診断され、治療の補完的効果を漢方薬に求めてご相談に訪れる方がここ数年増えています。起立性調節障害は思春期前後の小児に多いとされ、自律神経の失調が原因と考えられています。症状としては朝なかなか起きられず、起床すると気持ちが悪かったり、頭痛、めまい、立ちくらみなどの訴えをよく聞きます。午後になると比較的元気になる子が多い印象です。中には、動悸や倦怠感、精神的なことで気持ち悪くなるといった症状の場合もあります。体は本来、体勢や行動を変化させる際に、その動きに合わせて血流や呼吸も変化するよう、自律神経がコントロールしているのですが、そのコントロールがうまくいかなくなった状態です。病院の治療では、血圧をあげる薬などが用いられます。また、めまいや頭痛を改善する漢方薬が用いられることもあります。
ご相談に訪れる患者さんのほとんどは中高生で、朝からの登校が難しくなり、とくに受験期のお子さんたちには大きなストレスとなってしまっています。思春期前後とあって、ホルモンバランスの変化など、身体の成長はもちろん、精神面でも大人へ移行する難しい年代です。これらの要素は自律神経にも大きく影響します。さらに、塾やスマホなどの影響で就寝が遅くなったり、体を動かす時間が少なくなったり、自然と触れ合う時間が短くなったり、刺激的な映像、急速かつ膨大な情報、砂糖や添加物の過多な飲食、季節感を無視した飲食、異常気象等々、心身に不自然な負荷をかけることが当たり前の時代となってしまいました。ただでさえデリケートな中高生の体調が悲鳴を上げるのも無理がないのかもしれません。SNSの年齢制限がニュースで取り上げられることがあります。それらのニュースを見ると、倫理的な面が問題とされることが多いようですが、心身の成長への影響を考えると、さらに深刻な問題があるのではないかと思えてきます。
漢方の世界では、自然界を陰陽のバランスでとらえ、自然の一部である人の体も陰陽を応用して考えます。自然界では昼が陽で夜が陰、夏が陽で冬が陰、天が陽で大地が陰など。人体では背側が陽で腹側が陰、体表が陽で体内が陰、気(心身を動かす力や情緒)は陽で、血肉は陰、活動は陽で休息は陰など。最後の活動の休息の対比はまさに自律神経と符合します。陰も陽も大切で、そのバランスの調和が大切です。漢方薬で体調を整えるには、不足を補い、余分なものを取り去ることで調和を図ります。
漢方薬だけで解決する問題ではないのですが、このように心身の成長やバランスの調整を意識した漢方薬を治療に加えることで、著効を見るケースもあります。なかなか時代に逆行した制限を行うのは難しいものですが、効果の妨げとなりうる生活習慣があれば、それを制限しながら、治療効果の向上をめざしたいものです。
Natural Life No.140
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2025年2月号に掲載