漢方日記漢方の考え方養生・食養生
機能性胃腸症の漢方薬と食養生《NaturalLife144_2025年10月》
私たちは毎日食事をしています。それは生きるためであり、また楽しみでもあり、場合によってはストレス発散の手段にもなりえます。お腹がすいたり、お腹がいっぱいになったりする、そのお腹は胃ですね。胃の不調として感じる痛みやもたれ、むかつき、胸やけ、吐き気、食欲不振などは、体調だけでなく、その日の生活全体に影響します。
胃の不調を感じて病院で検査をしても胃炎や胃潰瘍等々の病変が認められない状態は「機能性胃腸症」または「機能性ディスペプシア」と呼ばれます。単に「胃弱」と呼ばれたり、「神経性胃炎」「慢性胃炎」などと診断されることもありました。
検査上問題はないのに症状が出現する要因として考えられるのは、胃の働きの低下や、胃酸の刺激を受けやすくなっていること、胃の伸縮性の低下などです。それらを引き起こす原因としては、食べ過ぎや飲み過ぎといった食生活の乱れ、年齢的な体力の低下、あるいは精神的なストレスが考えられます。ストレスは本人が気づいていない場合もあります。でも胃は気づいている。非常に精神面の影響を受けやすいデリケートな内臓といえます。
胃の機能を促進する代表的な漢方薬に六君子湯(りっくんしとう)があります。胸焼けや吐き気が強い場合には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)を用います。半夏瀉心湯の「瀉心」とは「心下の痞え(しんかのつかえ)を取り除く」ことを意味しており、「心下」とはまさに「胃」のことです。またストレスの影響を和らげるために神経や筋肉の緊張をほぐす作用がある柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や四逆散(しぎゃくさん)は、痛みの緩和にも役立ちます。胃に冷えを感じる場合には安中散(あんちゅうさん)などで温めます。
食事では胃にやさしいものをとり、腹八分目以下を心がけましょう。よく噛んで、ゆっくり食べることも重要です。野菜の調理では繊維を断ち切るように細かく切り、ゆでる、蒸すなど、加熱して柔らかくしましょう。たんぱく質も不足すると回復力が遅れますから、やわらかく、温かく調理して摂ってください。冷たい物や脂っこいものは胃に負担になります。香辛料は少量なら消化促進に役立ちますが、多すぎると胃を傷つけます。キャベツのビタミンUや、オクラ、サトイモなどのヌルヌル成分は胃粘膜を保護すると言われています。お酒やコーヒー、紅茶などは胃酸の分泌を促進するので、胸やけなどのある時は控えましょう。かんきつ類も胃酸の分泌を増やすので注意が必要です。
ストレスをためないようにすることも大切です。睡眠不足はストレスの影響を増幅します。逆に十分な睡眠は回復を促します。適度な運動や趣味などでのリフレッシュも有効です。くれぐれもストレス発散を口実にした食べ過ぎや飲み過ぎは避けましょう。

写真:カラスビシャク:塊茎が胃のつかえや吐き気を緩和する生薬「半夏」となる。六君子湯、半夏瀉心湯、柴胡桂枝湯などに含まれる。
Natural Life No.144
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2025年10月号に掲載
執筆者情報

研究報告・講演等
翻訳
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(中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英) - 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
(中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他) - 眼科領域における細辛の臨床応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
(中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福) - 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
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(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
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(中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶) - 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
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(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南) - 温胆湯の症例報告
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
