漢方薬の基本

はじめに

  • 漢方薬は、植物を主とした天然物由来の生薬を状況に合わせて組み合わせたものです。
    体が病気と闘い、本来の状態に戻ろうとする“自然治癒力”を高めると言われています。
    漢方薬は、病気の治療や体力増進に役立つほか、西洋薬による副作用の軽減・予防や、難治性疾患の方の生活の質を向上させるためにも利用されています。
    漢方薬は、お悩みの症状と、様々な要素を含む体質に基づいて選択します。 ですから、表面的な効果を記載した効能書きのみを頼りにしたのでは体質に対する考慮が欠けてしまい、正確な選択とはいえません。
  • 漢方薬を服用されるときには、ぜひ専門家とよくご相談の上、服用してください。

    また、漢方薬はまずい、くさい、面倒くさい、高価・・・などの印象を持たれている方がいらっしゃいますが、そういうものばかりではありません。 確かにまずいものや高価なものもございますが、美味しいものや安価なものもございます。味覚の好みによってお薬を選ぶわけにはいきませんが、 価格については、効力の強さや、服用期間を勘案して融通の利く場合もございますから、ご相談下さい。また、エキス剤の普及により、 服用のしやすさは格段に向上し、携帯にも便利になっております。

    何よりも大切なことは、状態に合うお薬を適切に選択することです。その上で、剤型や価格を考慮することになります。

ご相談について

  • ご相談は、お悩みの症状について、その始まりからの経過について、詳しくお聞きします。
    また、体質を知るために様々なことについてうかがったり、薬効を確認するために舌の色艶などを見せていただいたりいたします。
    ご相談に要する時間は、初回の場合およそ1時間です。2回目以降は、短時間で済むことが多くなります。
    そのため、お時間のお約束をいただいている方を、優先的にご相談させていただきます。
  • 相談料は一切かかりません

    電話や電子メールでのご相談にも、お答えいたします。ただし、具体的なお薬の選択ができない場合もございます。

お薬の選択について

(左から紫雲膏、中黄膏(ベルクミン)、神仙太乙膏)

ご相談の内容をもとに、状態にあったお薬を選択します。ご服用いただくお薬は、1種類で済む場合と、2~3種類を組み合わせる必要のある場合がございます。方剤によっては、様々な剤型がご用意できる場合がございます。例えば、葛根湯であれば、煎じ薬、顆粒剤、錠剤などがございます。
方剤によっては、剤型が限定されます。内服薬には、煎じ薬、顆粒剤、錠剤のほかに、丸剤、液剤、散剤などがございます。また、外用の軟膏剤もございます。

お薬の価格について

大人の方で1日分がおよそ300円~500円くらいです。
ただし、状況により、300円未満の場合、あるいは500円以上の場合もございます。
また、特別な場合に、大変高価なものを必要とする場合もございますが、決して強要することはございません。
当方の説明にご納得いただいた上でご服用下さい。

服用の方法について

  • 服用する時間

    一般的に、食前または食間にお飲みいただきます。食前とは食事前30分~1時間、食間とは食後2時間程度です。空腹時に服用することで、吸収がよくなるといわれています。
    しかし、薬によっては、あるいは状況によっては、食後の方がよい場合があります。ですから、お薬をご購入いただくときに、ふさわしい服用時間についてご説明いたします。

  • 服用の仕方

    • 煎じ薬の場合

      • 1.

        一般的に、コンロで煎じる場合

        1日分の生薬が1袋に入っております。
        600mlの水に、薬の入った袋1つを入れ、火にかけてください。(必ず水から煮出して下さい。煮立ってきたら火を弱め、とろ火で200~300mlまで煮詰めてください。
        煮詰めたら、薬草の入った袋を熱いうちに取り出して下さい。煎液を3回(朝・昼・夜など)に分けて服用してください。冷めた煎液は、温め直して服用してください。
      • 2.

        煎じ器を使用する場合

        煎じ器を使用する場合は、煎じ器の説明書をご覧下さい。 煎じ器の詳細へ
    • エキス顆粒の場合

      定められた量を、定められた回数で服用してください。
      服用時には、温湯に溶かして服用してください。
      (熱湯の使用は避けてください。)
      溶けきらなかった残渣も、撹拌するなどして全て服用してください。
      また、溶解させずに服用しても、差し支えない場合もあります。
      その場合も、原則的に温湯で飲み込んでください。

  • 錠剤の場合

    (一番右は100円硬貨です)

    定められた量を、定められた回数で服用してください。
    服用には、温湯で飲み込んでください。
  • 丸剤の場合

    (一番右は100円硬貨です)

    定められた量を、定められた回数で服用してください。
    1.小さいもの(直径2~5mm程度)は、温湯で服用してください。
    2.大きいもの(直径2cm程度で、比較的やわらかい蜜丸)は、分割して服用してください。
  • その他、随時ご説明いたします。ご不明な場合は、お気軽におたずね下さい。

    冷水で服用した方がよい場合などがあります。随時ご説明いたします。
    子どもなどが、服用できないときには、甘いものに混ぜて服用させたり、オブラート等を使用する場合もあります。お気軽におたずね下さい。

副作用について

  • もともと漢方には、副作用という言葉や概念はありませんでした。意に反して病状が悪化したり、害作用が出た場合、 それは見立てのミスである「誤治(ごち)」と見なしました。また、使い方が正しくても病状の改善する予兆として一時的に悪化することがあり、 それを「瞑眩(めんげん)」と呼びました。しかし、西洋医学が主幹をなす現況の中で、漢方薬においても副作用の概念が定着してきています。

    一般的に、薬物にはいくつかの作用があり、治療の目的に合うものを主作用、目的に合わず不必要なものを副作用と呼んでいます。

    また意図せずに発生した有害反応は、本来副作用とは区別されます。漢方薬の場合も、個々の生薬には複数の作用があり、 すべての作用が治療の目的にかなうとは限りません。しかし処方を決める段階で、患者さんの症状と体質を根拠に、 好ましくない反応が起こらないような生薬の組み合わせが選択されます。そのため、副作用の発生数はわずかで、 起こっても軽度の場合がほとんどなのです。

  • 服用後の不良反応として比較的頻度の高いもの

    漢方薬を服用した後の不良反応として比較的頻度の高いものに、胃腸障害(地黄、麻黄、当帰などによるもの)、動悸(附子、麻黄)、 のぼせ(附子、麻黄、人参)、下痢(大黄、芒硝、桃仁)、発疹(麻黄、桂皮)、浮腫(甘草)などがあります。しかしこれらの反応は、 用量過剰による主作用の過度の発現であったり、適合体質の見誤りであることが少なくありません。まれに、漢方薬に対するアレルギー反応で、 発疹や発熱が報告されています。
    また、たとえこれらの害作用が発生しても、対処しやすいことがほとんどです。ですから、センセーショナルな話題に翻弄されてむやみに 心配したり、また自分の体質も調べずに安易に買いこむようなことのないようご注意下さい。

  • 西洋薬と飲み合わせる場合

    また、西洋薬との飲み合わせにも注意が必要な場合があります。例えば、高血圧に使用するカルシウム拮抗薬というグループの薬と大柴胡湯 などの漢方薬を併用すると、降圧作用が強まり、効果が異常に強く出てしまう場合があります。
    万一、副作用と思われる反応が現れた場合は、服薬を中止し、すぐに専門の医師や薬剤師に相談して下さい。

服用の期間について

  • 急性疾患の場合は、数日で状況が変わりますので、短期間ごとの観察が必要です。(当薬局では、1日分でもご購入いただけます。)
    慢性疾患では、初めは1~2週間ごとの観察をし、状況が落ち着いてきたら1ヶ月程度ごとの観察となります。
    全体の服用期間は、病状や体質により異なります。
  • 飲み続けないと効果が出ない?

    漢方薬は長く飲まなければ効果が出ないのでしょうか?しばしば耳にする言葉ですが、必ずしもそうとは限りません。たとえば風邪などでは、適切な方剤を服用すれば速やかに効果が現れます。 西洋薬と比べても、風邪のこじれる割合が少ないというデータもあります。

    また、こんな症例がありました。4~5年続く慢性の腰痛・背痛に悩む60代のご婦人がいらっしゃいました。 病院の消炎鎮痛剤や整体院での治療などを試みてきたがよくならないとの事。詳しくうかがうと、気持ちの問題が大きい様子。 しばしば更年期障害の治療に用いられる加味逍遙散(かみしょうようさん)を飲んでいただいたところ、1ヶ月ほどで痛みがすっかりなくなってしまいました。この方の場合、気持ちの問題ではまだ完治しているとは言えませんが、主たる訴えであった痛みに関しては1ヶ月の服用で治ったことになります。

    さて、この1ヶ月という期間は長いですか?短いですか?
    慢性病や難病となると、何年間も飲み続けることになるケースも少なくないのは事実です。しかしこれは漢方かどうかということではなく、 病気の種類によります。
    ただし、一時的に用いる鎮痛剤やかゆみ止めなどでは、西洋薬の方が即効性があると言えるでしょう。

中国土産や個人輸入品について

  • 要注意です!!

    かつて上海で購入した漢方薬を服用していた人が死亡したという報道がありました。ダイエットや糖尿病を目的とした漢方薬や健康食品の類で、 同様の事故が繰り返されていることは大変残念なことです。中国の薬店や売店における医薬品や健康食品の購入には相当の注意が必要なのです。 中国土産でもらったものや、インターネットでの購入についても同様です。

    中国の漢方薬の中には、大変良いものもありますが、一般の日本人にとって、その見極めは難しいですし、販売員の売り言葉も鵜呑みにはできません。
  • また、漢字で表記されていると、一見、漢方薬であると思い込まれるケースもあります。中国国内向けに製造されたものは、 当然その効能や成分は中国語で表記されます。日本ではカタカナで表記される外来語も、中国では漢字です。 たとえばビタミンCは“維他命C”(維生素Cとも)、アスピリンは“阿斯匹林”と言った具合です。

    ですから漢字で表記されていても漢方薬とは限らないのです。さらには、表記成分以外のものが混入している恐れもあります。 その他、体質の違いや服用量の考慮も必要です。

    一方、日本の薬局薬店においても、中国製の漢方薬が売られていますが、日本における医薬品の許可を得て販売されているものについては、 心配する必要はありません。副作用等が全くないわけではありませんが、適切な使用のもとでは他の医薬品と同様に考えて下さい。

煎じ?orエキス?効果の違いについて

漢方薬には元来、生薬を煎じる湯剤のほか、生薬を粉末にした散剤、粉末にした散剤を蜜などで固めた丸剤などの剤型があります。
また現在最も汎用される顆粒剤は、生薬を煮出して水分を蒸発させ、乾燥エキスとしたものです。乾燥エキスからは錠剤やエキス散剤も作られます。 ときに乾燥エキスと原粉末を合わせたものなどもあります。
元来の湯・散・丸剤で処方される場合は、患者さんの状態に合わせて内容を加減することが可能であるという利点があります。 しかし服薬するまでに手間がかかるのも事実です。

また同じ処方内容で、元来の剤型のものとエキス剤とで薬効を比較した場合、明らかな差がみられる場合と大差ない場合があります。
これは処方にもよりますし個人差もあるようです。明らかな差がある場合は、元来の剤型に軍配が上がるようです。

しかしながら、昨今のエキス剤の品質はかなり向上しており、また、安定した服用が確保できるため、煎じ薬よりも効果が出る場合もあります。
何よりも大切なことは、適切な処方を用法用量を守って服用することといえるでしょう。