月経・妊活の漢方

早発卵巣不全(POF)と漢方治療

早発卵巣不全(POF)は

一般に40歳未満で月経が止まってしまう状態です。早発閉経とも呼ばれます。30歳未満女性の0.1%、40歳未満女性の1%にみられ、無月経の原因の約10%をしめるといわれます。

卵子は胎児期に卵巣でつくられ、出生時には約200万個ありますが、その後徐々に減少し、約50歳で1000個以下となって閉経します。POFでは何らかの原因で卵子が急激に減少したり、あるいは卵子があっても発育が障害されていると考えられます。

診断に関わる指標として、
・40歳未満の4〜6ヶ月以上続く無月経
・脳にある下垂体から分泌されるLH(黄体ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)が高値である
・卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)が低値である
といったことが挙げられます。


西洋医学的治療では

妊娠を希望されない場合、POFの患者さんは女性ホルモンが欠乏している状態ですが、この状態が長く続くと骨粗鬆症、脂質代謝異常症、心筋梗塞などの頻度が高くなるため、一般的な閉経年齢である50歳前後まで女性ホルモンの補充療法が必要です。

妊娠を希望される場合は、女性ホルモン剤を長期間内服したり、FSHの分泌を抑制するGnRHアゴニストを使用して、FSH値を正常化した後に排卵誘発剤を使用します。自己免疫疾患が関与している場合は副腎皮質ステロイドの併用を行います。

早発卵巣不全(早発閉経)と診断されても、その後に排卵や月経が起きることもあり、生涯に亘る妊娠率は5~10%とも言われています。しかし前述のように妊娠希望のある方に対して、様々な排卵誘発法や治療が試みられていますが、いずれも有効性を示すエビデンスには乏しいとされています。唯一エビデンスのある治療法は卵子提供とされ、日本では一般的でありません。


漢方では

心身の生命活動は五臓六腑の五臓(肝・心・脾・肺・腎)が中心となって行われていると考えます。この中で最も月経と関わるのは生命の根源である精を蓄える「腎」と血を蓄える「肝」です。そのほかに精や血の栄養を供給したり、血管を保持すると言われる「脾」、月経・受胎・胎児の生育をつかさどる「子宮」、子宮につながり血海とも呼ばれる「衝脈」、胎児の生育を支える「任脈」などが、月経の状態に大きく影響します。

これらの器官を賦活し、精や気、血を補い、体調のバランスを図ることが治療に役立つと考えられます。


中国の文献では

中国の名医のPOFに関する報告において最も重視されているのは精を蓄える「腎」の状態です。腎を補う「補腎薬」では日本でもよく用いられる地黄や山薬も用いられますが、日本ではあまり用いられない五子衍宗丸(兎絲子・枸杞子・覆盆子・五味子・車前子)や二至丸(女貞子・旱蓮草)の使用も見られます。

また本症の状態は複雑であり、気の流れや血の流れを整えることも重視されています。

補腎薬の利用にも、複雑性が見られ、南京の名医、夏桂成先生は「心」と「腎」の関係を重視する治療を提唱しています。「心」は血流をつかさどるだけでなく、精神や脳の活動とも関係することを治療に取り入れています。

やはり北京の名医、柴松岩先生は「肺」と「腎」の関係を重視していらっしゃいます。「肺」は気の流れや水分代謝などで「腎」と協力しており、肺は腎の母とも言われる関係を強化することで全身の機能の賦活を目指しています。


漢方独特の視点から体のバランスを整え、体質を強化し、結果的にホルモンのバランスが整うことを目指してゆけば、POFの治療にも役に立つと考えられます。