月経・妊活の漢方

多嚢胞性卵巣症候群と漢方治療

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

とは、両側の卵巣が腫大・肥厚・多嚢胞化し、月経異常や不妊に多毛・男性化・肥満などを伴う症候群です。液体で満たされた袋状の病変(嚢胞 のうほう)が卵巣に多数生じ、卵巣が腫れて大きくなることから、多のう胞卵巣症候群と呼ばれます。

本症候群では、卵巣で通常より多い男性ホルモンが分泌され、卵胞の成熟に時間がかかり排卵しにくくなります。これによって月経不順・無月経などの月経異常が引き起こされます。また男性ホルモンが多いことから、にきび・体毛増加・肥満などの症状が現れる特徴があります。

男性ホルモンの分泌増加は、血糖値を下げるインスリンというホルモンのはたらきが弱まるためと考えられています。男性ホルモンは卵胞の発育を抑制し、卵巣を包む膜を厚くするなどの作用を持つため、正常な排卵ができずPCOSを発症するとされています。

また脳の下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌バランスが崩れ、LHの分泌が増えることにより、卵胞の成熟が遅れることも発症原因の1つとされています。

原因には遺伝や環境的な要素なども関連すると考えられます。

PCOSは生殖年齢女性の5~8%に見られると言われ、不妊の原因となることもあります。


西洋医学的治療では、

妊娠を希望されない患者さんでは、ホルモン剤を用いて定期的に月経を起こす治療が行われます。排卵がうまく起こらず月経周期が乱れ、子宮内膜が剥脱しないことによる子宮内膜増殖症や子宮体癌のリスクを減らすことになります。

妊娠を希望されている場合は、排卵誘発剤で排卵を促す治療が行われます。このとき排卵誘発剤の注射は卵巣に過剰な刺激を与えて、卵巣が腫れてお腹に水がたまる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を引き起こすことがあるため注意が必要です。注射を多く使わないと排卵できない重症の排卵障害の場合は、手術療法や体外受精が検討されます。


漢方では、

PCOSの根本に人間の精(生命力の根源)を蓄える腎の衰えがあり、さらにストレスや生活習慣による、気・血・水の流れの異常が関係すると考えます。

また「女性は血をもって本となす」という言葉があります。とくに月経が遅れやすく、甚だしければ無月経となる状況では、精と血を補うことが重要と考えられます。

五臓六腑(五臓:肝・心・脾・肺・腎、六腑:胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)のうち、精は腎に蓄えられ、血は肝に蓄えられるとされています。また食べ物から精や血の材料となる栄養を吸収するのは脾です。気や血や水の流れの状況には多くの臓腑が関連し、心身の調子に大きく影響していますので、これらの状態を把握して適切な処置をすることで、体と心のバランスを整え、周期的な月経を目指します。


中国の文献では、

上述した漢方の見方が基本になるのですが、とくに多く見られるのは、内臓の問題では「腎虚(じんきょ)」という精を蓄える腎の機能低下、病理産物では「痰湿(たんしつ)」という体内の水分(水分・脂質・粘液など)の停滞と「瘀血(おけつ)」という血行不良の状態です。

腎虚に対しては「補腎(ほじん)」、痰湿に対しては「化痰利湿(かたんりしつ)」、瘀血に対しては「活血(かっけつ)」という治療方法があり、それぞれに適した生薬が用いられたり、針灸治療などが施されています。

このように漢方的な視点から体のバランスを整えることも、PCOSやそれに伴う不妊の治療効果に大きく役立つと考えられます。