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起立性調節障害の漢方薬
病院で起立性調節障害と診断され、治療がなかなか思うように効果が見られないとのことで、当薬局を訪れる方が最近増えています。その多くは中高生です。
起立性調節障害は思春期前後の小児に多い疾患といわれ、自律神経の失調が原因と考えられています。症状としては朝なかなか起きられず、起床すると気持ちが悪かったり、頭痛、めまい、立ちくらみなどの訴えをよく聞きます。午後になると比較的元気になる子が多い印象です。中には、動悸や倦怠感、精神的なことで気持ち悪くなるといった症状の場合もあります。厳密にはいくつかのタイプに分類され、失神を来す重篤なケースもあります。治療には血圧をあげる薬や、めまいや頭痛を改善する漢方薬が多用されています。
当薬局では重篤なケースはあまりないのですが、それでも多くの患者さんは登校が難しくなり、受験期のお子さんたちにはさらなるストレスとなってしまいます。
思春期前後とあって、ホルモンバランスの変化や、精神的にも難しい年代であり、そういったことは自律神経にも大きく影響します。さらに、塾やスマホなどの影響で就寝が遅くなったり、体を動かす時間が少なくなったり、自然と触れ合う時間が短くなったり、刺激的な映像、膨大な情報量、砂糖や添加物の過多な飲食、季節感を無視した飲食、異常気象などなど、心身に不自然な負荷をかけることが多い昨今です。ただでさえデリケートな中高生の体調が悲鳴を上げるのも無理がないのかもしれません。
漢方薬は、自律神経のバランスを調えたり、心身の成長を支えるのに役立ちます。しかし漢方薬だけですべてが解決できるわけではありません。上述の様々な悪影響を及ぼしかねない事柄を、できる範囲で減らしていく努力も必要です。もちろん避けられないものもあるでしょうから、できる範囲で考えることが大切だと思われます。
起立性調節障害でよく用いられる漢方薬は、めまいや頭痛を改善する苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)や半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)です。半夏白朮天麻湯は、吐き気や胃弱にも対応します。しかし根本的な解決につながらないことも少なくありません。漢方薬で体調を整えるには、不足を補い、余分なものを取り去るという考え方に基づきます。心身のどの部分の何が足りないのか、何が余分なのかを探っていく必要があります。
子どもの成長を促す漢方薬に小建中湯(しょうけんちゅうとう)があります。子供のもつ成長のエネルギーを鼓舞し、心身を強くしてゆくと考えられます。だるさや体力的な不足が顕著な場合には、それらを補う人参(にんじん)や黄耆(おうぎ)といった生薬を含む漢方薬を検討します。ストレスによる緊張が強いと思われる場合には柴胡(さいこ)という生薬を含むものが候補になります。月経の問題などがある場合には当帰(とうき)や芍薬(しゃくやく)、桂皮(けいひ)などを含む処方が多用されます。例えば逍遙散(しょうようさん)はホルモンのバランスだけでなく自律神経のバランスも調節し、月経や心身の回復に役立ちます。
このように心身の成長やバランスの調整を意識した漢方薬を治療に加えていただくことで、著効を見る場合もあります。効果の妨げとなりうる生活習慣があれば、それを制限しながら、治療効果の向上をめざしましょう。