おねしょ
おねしょ(夜尿症)の漢方薬
おねしょは,寝ている間につくられる尿の量と,尿をためる膀胱の大きさのバランスが悪いために起こります。
赤ちゃんは,まだ膀胱が小さく,昼も夜も尿が作られますから,しょっちゅう排尿が起こります。
2~3歳になると,膀胱が少し大きくなり,また夜間に作られる尿の量が少しずつ減少します。この段階で,約半数のお子さんがおねしょをしなくなると言われています。
4~5歳になると,膀胱の大きさも安定してきて,さらに夜間の尿の量も減ってくるので,多くのお子さんがおねしょをしなくなります。
おねしょをするお子さんの割合について,6歳児で約10%,8歳で約8%,10歳で約5%,16歳で約2%とというデータがあります。
しかし,6歳を過ぎておねしょがあるからといって,即病的とはいえません。
おねしょの原因
◎腎臓では,体にとって不要な水分や電解質を排泄するために,血液から不要物を濾しとるのですが,その際,混在する必要な水分を再吸収する仕組みがあります。このとき,抗利尿ホルモンというホルモンが少ないと,水分の再吸収が少なくなり,うすい尿がたくさん作られることになります。
抗利尿ホルモンは,日中少なく,夜間睡眠中に多くなる特徴があります。ところが,おねしょをするお子さんでは,夜間の分泌量が少なくて,夜尿の原因となっていることがあります。
◎膀胱にためられる尿量は,6~7歳で150ml,7~8歳で200ml,8歳を超えると250mlとなるのが普通といわれています。ところがおねしょをするお子さんでは,この容量が,年齢の割に小さいことがあり,夜尿の原因となります。このようなお子さんは,日中もおしっこが近い傾向があります。
また,昼間は問題ないのに,睡眠中,膀胱機能が不安定になり,少ない尿量でおねしょをしてしまうこともあると言われています。
◎精神的ストレスの影響でおねしょをしてしまうこともあります。ストレスが抗利尿ホルモンの分泌に影響すると考えられます。
◎おねしょは,熟睡して起こるとか,おしっこの夢を見たためにしてしまったなどと言われることも多々ありますが,実際にはあまり関係ないことがわかってきているそうです。つまり,軽い睡眠でも,深い睡眠でも,あるいはレム睡眠でもおねしょは起きているということです。
また,夜中に起こしてトイレに行かせると,睡眠のリズムが乱れて抗利尿ホルモンの分泌が減少し,ぐっしょり濡らしてしまうおねしょが固定してしまう恐れがあることが指摘されています。
◎秋から冬にかけて寒くなると,夏に克服したおねしょが再発することがあります。これは,気温との関係で,夏は発汗量が多いのに対して,冬は尿量が増えるためです。さらに膀胱機能も不安定となり,ためられる尿の量が少なくなるためです。
つまりおねしょの原因は様々あるのですが,概していうと,膀胱とホルモン系統の未熟さが,原因の大部分を占めると考えられます。
おねしょの治療
西洋医学では,幼児期では経過観察し,学童期に入ると,抗利尿ホルモンの分泌を促したり,ホルモンを補充したり,膀胱容量を広げるなどのお薬を使用する場合があります。また,おしっこを我慢させて膀胱機能を高めるといったこともされます(かならず専門医と相談して行って下さい)。また思春期を過ぎても続く場合には,専門的な治療に加えカウンセリングなども行われています。
ここに漢方薬を取り入れると,治療の幅は大変広がります。漢方薬は間接的に心身の成長を促したり,あるいは体を温めるといったことにより,夜尿症の改善を早めると考えられます。
漢方ではその子の体質に応じて,以下のような漢方薬が頻用されます。
心身を丈夫にするもの
・小建中湯(比較的多用される。腹痛を起こしやすい子,便秘がちな子,冷えやすい子に有効)
・補中益気湯(アレルギー疾患にも多用される。カゼをひきやすく,比較的多汗の子に有効)
・六味地黄丸(尿量多く,痩せて,骨や歯が弱いなどがみられる夜尿症に使用することがある)
心理的興奮を落ち着かせるもの
・抑肝散(疳の強い子に使用。親がすぐ怒ってしまう場合には,親子で服用するとよい)
・甘麦大棗湯(ヒステリックに泣き叫ぶ子に。甘くて飲みやすい)
・桂枝加竜骨牡蛎湯(虚弱で,汗をかきやすく,神経質な子に)
・柴胡桂枝湯(神経質で,胃腸虚弱な子に。アレルギー疾患やカゼをひきやすい子にもしばしば用いられる。)
生活上の留意点
◎「起こさない,あせらない,おこらない」ようにいましょう。
起こすことを続けていると,抗利尿ホルモンの分泌が悪くなり,おねしょが固定してしまう恐れがあります。
幼児では,昼間の排便はトレーニングでトイレに行くようになりますが,夜間のトイレはトレーニングできるものではありません。成長に伴って自然におむつが外せるようになります。個人差があるものですからほかの子と比較してあせったりしないで下さい。
叱るなどの精神的プレッシャーを与えるのも,抗利尿ホルモンの分泌に悪影響を与える恐れがあります。
◎水分は朝と昼に多めに摂るようにして,夕方からの水分を控えめにしましょう。
一気のみの習慣があると,ついたくさん飲んでしまいますので,そのような習慣は改善しましょう。
夕食の汁物や果物もなるべく控えましょう。
◎冷えによる影響が考えられる場合には,ゆっくり入浴させたり,布団をあらかじめ温めておくなどの工夫をしてみましょう。
保温効果のある入浴剤も良いかもしれません。また,体を冷やすと言われる食べ物も控えめにしましょう。
◎宿泊行事に参加する場合
・場合によっては,お医者さんのお薬の使用が必要なかもしれません。
・他の子に知られないようにそっと起こしてもらう。
・万一失敗していたら,他の子が起きる前に着替えさせてもらう。
・一晩に何回もおねしょをする場合は,寝静まってから保健室に移してもらう。
これらのように引率の方にご協力いただきましょう。
漢方薬の効果
上述の漢方薬のうち,最も有名なおねしょの漢方薬は小建中湯です。しかし当薬局では,桂枝加竜骨牡蛎湯の著効例が多いです。この2つはともに桂枝湯を基本骨格とする方剤で,心身の成長を促したり,自律神経のバランスを整える働きがあると考えられます。
小建中湯には,桂枝湯に膠飴(こうい)というアメが入っており,甘くて飲みやすい特徴があります。しかし顆粒剤ですと1回量がひどく多量です。
桂枝加竜骨牡蛎湯は,桂枝湯に竜骨(りゅうこつ)という大型ほ乳類の化石化した骨と牡蛎(ぼれい)という牡蛎(かき)の貝殻が入っています。竜骨や牡蛎は,収斂作用や鎮静作用が期待できます。
飲み始めたその日から,効果の見られる場合もありますし,何日もたって変化が現れる場合もあります。ただし,成功の日があっても次の日には失敗ということもあるのが普通です。徐々に成功の日が増えて行きます。効果の判定も長い目で見ていただきたいと思います。決してあせったり怒ったりしないで下さい。
成功の日が何日も続いたのに,気候が寒くなったとたんにぶり返すこともあります。そんな場合は昨年の同時期と比べてどうかを検討して下さい。
参考:「おねしょなんかこわくない」帆足英一著,小学館
「中医児科学」上海科学技術出版社
「漢方治療指針」矢数圭堂・松下嘉一監修,緑書房