付録-方剤メモ
藿香正気散 かっこうしょうきさん
藿香はシソ科のパチョリまたはカワミドリの葉または全草で、独特の強い芳香を持つ生薬です。藿香正気散は急性の下痢や吐き気など、食あたり・水あたり・急性胃腸炎に用いられます。非常に効果がシャープで、日本でも中国でも胃腸障害によく使用される処方です。処方内容を見ると、二陳湯や半夏厚朴湯、平胃散などが基本にあり、藿香、紫蘇などの解表薬が含まれることがわかります。2020年春頃のCovid19感染症の中国における治療では、寒邪の多くが胃腸障害や舌苔膩などの特徴が見られたため、藿香正気散が多用されました。
参考書
新 一般用漢方処方の手引き((株)じほう;平成25年9月26日)
成分・分量 白朮3 茯苓3~4 陳皮2~3 白芷1~4 藿香1~4 大棗1~3 甘草1~1.5 半夏3 厚朴2~3 桔梗1.5~3 蘇葉1~4 大腹皮1~4 生姜1
用法・用量 湯
効能・効果 体力中等度以下のものの次の諸症:感冒、暑さによる食欲不振、急性胃腸炎、下痢、全身倦怠
※本書は日本の漢方製剤(医療用・一般用・薬局製剤を含む)の基準となる一般用漢方処方をまとめたものです。本書収載の漢方処方は日本国内で漢方製剤として認可を得ることができます。本書の選から漏れた漢方処方であっても、生薬製剤などのカテゴリーで製剤化されているものがあります。
【原典】太平恵民和剤局方
(陳承、裴宗元、陳師文ら;1107~1110年)
傷寒頭痛、悪寒壮熱、喘および咳嗽、五労七傷、八般風痰、五般膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧、遍身虚腫(全身の柔らかい浮腫)を治す。婦人の産前産後、血気刺痛、小児疳傷なども併せて治療できる。
大腹皮 白芷 紫蘇 茯苓(去皮)各一両 半夏曲 白朮 陳皮(去白) 厚朴(去粗皮、姜汁炙) 苦梗 各二両 藿香(去土)三両 甘草(炙)二両半
上細末とする。毎服二銭を水一盏、姜銭三片、棗一枚を合わせて七分目まで煎じ、熱服する。汗が出そうになったら、衣服をかぶり、再度煎服する。
※五労七傷:五労は志労、思労、心労、憂労、痩労。七傷は大いに飽きて脾を傷る、大いに怒り気逆して肝を傷る、強いて重きを挙げるか湿地に久坐してして腎を傷る、形寒または寒飲により肺を傷る、憂愁思慮により心を傷る、風雨寒暑により形を傷る、大いなる恐惧や不節により志を傷る。
※山嵐瘴気:山嵐は山中の霧気を指す。瘴気は南方の山林の中で生じる湿熱性の蒸気。山嵐瘴気は南方の山林中の濕熱が蒸鬱して生じる一種の病邪をいう。通常は瘧疾の病を引き起こす瘧邪を指すことが多い。(改訂版中医基本用語辞典;東洋学術出版社より)
方剤学(普通高等教育中医薬類計画教材 上海科学技術出版社 1995年)
【組成】大腹皮 白芷 紫蘇 茯苓(去皮)各一両(5g) 半夏曲 白朮 陳皮(去白) 厚朴(去粗皮、姜汁炙) 苦桔梗 各二両(10g) 藿香(去土)三両(15g) 甘草(炙)二両半(12g)
【用法】毎服二銭(6g)を水一盏、姜銭三片、棗一枚を合わせて七分目まで煎じ、熱服する。汗が出そうになったら、衣服をかぶり、再度煎服する。
【効用】解表化湿 理気和中
【主治】外感風寒、内傷湿滞証。霍乱吐瀉、悪寒発熱、頭痛、脘腹疼痛、舌苔白膩、山嵐瘴瘧などを治す。