症状別漢方紹介

逍遙散 しょうようさん

当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)といった血を補うもの、白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう)といった消化吸収を助けるもの、柴胡(さいこ)、薄荷(はっか)といった気の流れを整えるものを中心としています。気の流れを整えることを得意とする処方の一つです。気の流れを整えるというのは、自律神経やホルモンなどのバランスが崩れたような状態を改善することを意味します。女性ホルモンの変化に伴う月経前症候群や月経中の不調、生理不順、更年期障害などに多用されますが、男女問わず精神的ストレスによる不調に幅広く用いられます。精神的ストレスによる不調に用いられる処方には、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)、抑肝散(よくかんさん)、加味逍遥散(かみしょうようさん)等々たくさんありますが、比較的穏やかに作用する処方です。

 

参考書

 

新 一般用漢方処方の手引き((株)じほう;平成25年9月26日)

成分・分量 当帰3~4.5 芍薬3~4.5 柴胡3~4.5 白朮3~4.5(蒼朮も可) 茯苓3~4.5 甘草1.5~3 生姜0.5~1 薄荷葉1~2.1
用法・用量 湯
効能・効果 体力中等度以下で、肩がこり、疲れやすく精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症、神経症 ※血の道症とは、月経、妊娠、出産、産後、更年期など女性のホルモンの変動に伴って現れる精神不安やいらだちなどの精神神経症状および身体症状のことである。

※本書は日本の漢方製剤(医療用・一般用・薬局製剤を含む)の基準となる一般用漢方処方をまとめたものです。本書収載の漢方処方は日本国内で漢方製剤として認可を得ることができます。本書の選から漏れた漢方処方であっても、生薬製剤などのカテゴリーで製剤化されているものがあります。

方剤学(普通高等教育中医薬類計画教材 上海科学技術出版社 1995年)

【組成】甘草(微炙赤)半両:4.5g 当帰(去苗、銼(やすり)、微炒)茯苓(去皮、白者)芍薬(白)白朮 柴胡(去苗) 各一両:9g
【用法】上を粗末と為す。毎服二銭、水一大盏、生姜一塊を焼いて刻んだものと、薄荷少しばかりを合わせ七分目まで煎じ、残渣を去って服す。時間はこだわらない。
【効用】疏肝解鬱、養血健脾
【主治】肝鬱血虚脾弱証。両脇作痛、頭痛目弦、口燥咽乾、神疲食少、或いは往来寒熱、或いは月経不調、乳房脹痛、脈弦而して虚の者。

【原典】太平恵民和剤局方
(陳承、裴宗元、陳師文ら;1107~1110年)

血虚労倦、五心煩熱、肢体疼痛、頭目昏重、心松頬赤、口燥咽乾、発熱盗汗、減食嗜臥、および血熱相搏、月水不調、臍腹脹痛、寒熱如瘧を治す。又室女血弱陰虛、営衛不和、痰嗽潮熱、肌体羸痩、漸成骨蒸を療す。
甘草(微炙赤)半両 当帰(去苗、銼(やすり)、微炒)茯苓(去皮、白者)芍薬(白)白朮 柴胡(去苗) 各一両
上を粗末と為す。毎服二銭、水一大盏、生姜一塊を焼いて刻んだものと、薄荷少しばかりを合わせ七分目まで煎じ、残渣を去って服す。時間はこだわらない。

万病回春(龔廷賢;1587年)

肝脾血虚、発熱あるいは潮熱、あるいは自汗盗汗、あるいは頭痛目弦、あるいは怔忡寧ならず、頬赤口乾き、あるいは月経不調、あるいは肚腹作痛、あるいは小腹重墜、水道渋痛、あるいは腫痛膿出で、内熱渇をなすを治す。

医方集解医方集解(汪昻;1682年)

血虚肝燥、骨蒸潮熱、咳嗽、潮熱、往来寒熱、口乾き便渋り、月経調わざるを治す。骨蒸潮熱は肝血の虚なり。肝火が肺に乗じ、故に咳嗽す。邪少陽にあり、故に往来寒熱す。火盛んにして金を尅し、水を生ずること能はず。故に口渇し、便秘す。肝は血を蔵す。肝止めば故に経水調はず。

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会