症状別漢方紹介

汗と漢方《知って得する漢方24_’08.8》

暑い季節は汗をたくさんかきますね。また,緊張して手のひらに汗をかくのは,握ったものを滑り落とさないための仕組みだそうです。そのほか,風邪で熱のあるときや,さらには自律神経やホルモン分泌の異常でも発汗が起こります。

漢方書に登場する汗

古くから伝わる漢方書にも汗に関する記述はたくさん出てきます。汗は体の状態を察知したり,漢方薬などの治療効果を判断するために観察されます。

漢方書に登場する汗の中で,病的な発汗異常とされる二つの状態についてご紹介します。

  • ①自汗(じかん):自汗とは運動や厚着などはしていないのに日中いつも発汗する状態で,動くと発汗はさらにひどくなります。自汗の多くは,虚弱体質や大病後の体力低下,慢性化した咳や喘息などが原因となって,体表部を守る衛気(えき)という気の力が不足して汗が漏れ出ている状態と解釈されます。衛気を増強するためには玉屏風散(ぎょくへいふうさん)という処方が多用されます。屏風のごとく外界と体内との境界を仕切る衛気を丈夫にするのです。
  • ②盗汗(とうかん):盗汗とは就寝後に汗が出て,目が覚めると汗が止まる症状,つまり寝汗のことです。寝ている間にひっそりと出てくる様が盗人のようであるため盗汗と呼ばれます。盗汗の原因は加齢や疲労などによって体内の水分消耗が進み,体がほてりやすくなっていると考えられます。午後になると熱っぽくなったり,口が渇きやすい,手足のひらがほてるなどの自覚症状を伴います。このような時には,体に潤いを与えて,ほてりを取る生薬を用います。代表処方には生脈散(しょうみゃくさん)や知柏地黄丸(ちばくじおうがん)などがあります。
    生脈散
    写真:生脈散の成分
    左から ①人参(ニンジン):オタネニンジンの根
    ②五味子(ゴミシ):チョウセンゴミシの果実
    ③麦門冬(ばくもんどう):ジャノヒゲの塊根

夏の発汗と水分補給

夏の暑い状態では,外でのお仕事や運動時はもちろんのこと,日差しのない室内にいても,昼夜を問わず発汗が多くなりますね。昨今は熱中症予防のため,早めの水分補給を心がけるよう言われています。このような時に併せて前出の生脈散を利用すると,より効果的です。生脈散は心肺機能を高め,皮膚・粘膜を潤し,体力の補充にも働くためです。