症状別漢方紹介

動悸の漢方《知って得する漢方36_’09.8》

動悸とは,走ったり,緊張したりしていないのに,心臓の拍動を自覚する症状です。原因により現れ方は様々で,脈が跳ぶようであったり,疲労によって出現したり,寝床に入ると感じたり,少し動くとドキドキするなど。また不安感や息切れ,痛みなどを伴う事もあります。動悸は重大な心臓の病気の恐れもあり,一度病院での検査を受けて,適切な指示を仰ぐべきです。

その上で,漢方薬を症状の改善に役立てる事もできます。漢方では,動悸があっても胸部だけの問題に留まらず,独特の考え方で心身全体の状態を考慮します。全身のバランス改善を目差しながら,血流や拍動の安定を図ります。

漢方での動悸のとらえ方

漢方で論じる五臓六腑のうち,動悸はやはり心(しん)の問題です。漢方では,心は血液を全身に送る働きほかに,心(こころ)つまり感情や思案のコントロールも行っていると考えます。そのため動悸に不安感や不眠,夢が多いなどの症状を伴う場合には,心(しん)自体の不調と判断し,心を養い落ち着かせる生薬を使用します。

胸痛や肩こり,頭痛,痔,そして舌の色が暗いといった状態が見られれば,血流が悪いことがうかがえます。このような時にはサルビアの仲間の丹参(たんじん)やベニバナを乾燥させた紅花(こうか),桃の種である桃仁(とうにん)などを使用します。

また,水分代謝や脂質代謝が悪い場合,体には余分な老廃物が蓄積します。これらは,気・血・水といった人体を構成する要素の流通を邪魔して,異常な血流を生じさせます。いわゆる動脈硬化や肥満などと関連が深く,舌には厚みがあるベトベトとした苔が付きやすくなります。このような場合,老廃物を分解したり,排泄を促すような薬草が有効です。身近なものでは,生姜(しょうきょう=ショウガ)や陳皮(ちんぴ=ミカンの皮)などが挙げられます。

体力が低下している場合には,高麗人参などで体力を付け,心の機能を高めます。

さらにストレスは,現代社会の大きな問題であり,動悸の原因にもなりえます。精神的緊張や神経・筋肉のこわばりを生じさせ,イライラ感,胃腸障害,ふるえなども引き起こします。神経や筋肉の緊張をほぐすには,シャクヤクの根や,ハッカなど香りの良い薬草を利用します。

実際には,様々な原因が複合して発症します。その状況によって適切な生薬の組み合わせを選択することが大切です。