症状別漢方紹介

冷えと免疫力《NaturalLife115_’20.12》

今年を振り返ると、何と言っても新型コロナウイルスに振り回されました。様々なことに制限が伴い、閉塞感を感じずにはいられません。この生活はいつまで続くのでしょう?

ワクチンの実用化や治療薬の開発も待たれるところですが、個人個人の自衛の大切さが叫ばれ続けています。皆様ご存じの通り、手洗い、マスク、うがい、そして三密を避けるといったことです。今年はインフルエンザウイルスの感染者が極端に少ないそうで、個々人の自衛努力がその一因として大きいと言われています。

また体力・免疫力を高めることが、予防としても、あるいは万一感染した場合に重症化を避けるためにも重要と言われます。とくに冬場は冷えと乾燥を防ぐことも免疫力を維持していく上で大切です。

本稿の3月号では黄耆(おうぎ)という生薬を紹介しました。漢方では体に備わる防衛の力を衛気(えき)と呼び、衛気を強めることが感染症や花粉症の予防に役立ちます。黄耆はその衛気を補うことに優れています。黄耆を含む処方には玉屏風散(ぎょくへいふうさん)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などがあります。補中益気湯には有名な薬用人参も含まれます。薬用人参は痩せて冷えやすい人に向く薬草で、体がほてったり、高血圧の人は注意が必要です。

さらに体を温めるには桂皮(けいひ、シナモンの一種)、生姜(しょうきょう、ショウガを乾燥させたもの)、呉茱萸(ごしゅゆ、ミカン科の一種で苦みが強い)といった薬草や、鹿の角、タツノオトシゴといった動物生薬を用います。また乾燥を防ぐためには当帰(とうき、セリ科の一種で血液を補う)や麦門冬(ばくもんどう、ジャノヒゲの塊根でのどや口を潤す)などが有効です。

処方としては、黄耆、桂皮、生姜を含む黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)や、黄耆、人参、当帰、桂皮を用いる十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)などがあります。冷えによる血行障害で、痛みやしもやけまで生じる人には、当帰、桂皮、呉茱萸、生姜などを含む当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)や温経湯(うんけいとう)が役立ちます。温経湯は人参や麦門冬も含んでいます。また強力な動物生薬を含むものとして、鹿の角を含む参茸補血丸(さんじょうほけつがん)やタツノオトシゴを含む参馬補腎丸(じんばほじんがん)などが使用されます。

どんなに良いものをとっていても、一方で体に悪い習慣があると、期待通りの効果は望めません。免疫力を下げると言われることに、ストレス、睡眠不足、飲食の乱れ、運動不足、過労などがあります。もちろん避けられないこともあるかとは思いますが、自分に何が過剰で、何が不足なのかを認識しながら、できる範囲で改善に取り組みたいものです。

写真:呉茱萸(ごしゅゆ)強い苦みと香りが特徴的

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会