消化器・口の漢方
痔の漢方
痔の分類
痔は直腸と肛門付近の病気で、痔核(いぼ痔)、痔裂(裂肛・切れ痔)、痔瘻(あな痔)に分類されます。
- ①痔核:直腸や肛門の周辺に密集する静脈がうっ血して腫れ、いぼ状になったものです。直腸の内側は神経がないため、ここに痔核ができても痛みがありません。排便時、ぽたぽたと血がたれたり、時に勢いよく出血します。悪化するといぼが肛門の外に出てくるようになり、さらに悪化すると常時いぼが飛び出ている脱肛状態になります。肛門周辺には神経があり、ここに痔核ができると、排便時には出血や激しい痛みを伴います。
- ②痔裂:硬い便が肛門の粘膜を傷つけて生じます。ちょっとした傷でもひどい痛みがあり、排便後もずきずきと痛みます。出血は大量ではありません。
- ③痔瘻:肛門のくぼみの傷に大腸菌が侵入し炎症が生じ、悪化すると化膿してそれが皮膚を破り外に出た状態です。肛門周辺に腫れ、痛み、灼熱感などが生じ、発熱や悪心なども見られます。
※なお肛門からの出血や膿は、直腸がんなども考えられます。まず専門医の診断を仰ぐことが大切です。
痔と生活習慣
生活の中には痔によくないことが多々あります。それらを改善することが、痔の治療には不可欠です。
肛門部に加わる強いいきみは大きな要因となりますから、スムーズな排便がとても大切です。便秘もまた下痢便も、痔にはよくありません。ある程度の時間的余裕を持って、できれば洋式トイレにして、力を入れずに排便できる習慣をつけましょう。また長時間同じ姿勢で立ち続けたり、座り続けるのも、肛門部のうっ血の原因になるので要注意です。
食事の面では、なるべく繊維の多いものや発酵食品をとり、便通を改善しましょう。辛いものは痔を悪化させます。これは辛味成分が炎症を悪化させたり、一部吸収されなかったものが排便時に粘膜を刺激するためです。アルコールも控えるべきです。血管のうっ血状態をひどくさせるからです。
体を冷やすことにも注意しなくてはなりません。体の冷えはうっ血状態を悪化させますし、便秘の原因にもなります。冷風や、冷飲食は避けましょう。
痔に用いられる代表薬
- 槐角丸(かいかくがん):痔疾の消炎止血に優れます。
- 芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう):出血性の疾患に用いられます。とくに痔疾、不正性器出血に有効です。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):胃弱で体力不足な方の化膿性のはれ物の治癒を助けます。
- 千金内托散(せんきんないたくさん):体力虚弱で患部が化膿する傾向の痔、痔瘻に使用します。
- 乙字湯(おつじとう):通便作用と消炎止血作用を持ちます。痔疾の便秘改善に頻用されます。
- 大柴胡湯(だいさことう):がっちりした体格で便秘傾向の痔核に、血行改善薬などと併用します。
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):血行改善に働きます。ハトムギを加えることもあります。
- 冠元顆粒(かんげんかりゅう):血行改善に役立ちます。中年以降の頭痛、頭重、動悸、めまい。
- その他、民間的にドクダミやイチジク、田七人参が利用されます。
※槐角(マメ科エンジュの果実)やドクダミには消炎止血に優れるルチンが含まれています。ルチンはソバなどにも多く含まれ、血管を丈夫にしたり、血圧を下げるなどの効果が注目されています。
外用薬
- 紫雲膏(しうんこう):痔の外用薬として頻用されます。火傷や切傷にも有効。
- 中黄膏(ちゅうおうこう):消炎止血効果に優れます。
※これらの漢方薬を痔の状態や体質に合わせて選択します。時に複数の処方を併用することもあります。
※実際に漢方薬を使用する際は、詳しい相談の上,服用下さい。