生活習慣病の漢方
糖尿病と漢方
糖尿病は血液中の糖質の値が標準よりも高値になる病気で,血糖値を下げるインスリンというホルモンの減少や 作用の低下によって起こります。症状としては,血液が濃厚になるために体が血管に水分を取り入れようとのどがかわいたり, 水分をたくさんとるために多尿となります。またブドウ糖がエネルギーとして利用できないために, 体内のタンパク質や脂肪の分解が進行し,体重減少や疲労感があらわれます。 しかし病状が軽度のうちは自覚症状はほとんどありません。成人で発生する糖尿病の多くは, カロリーの過剰摂取と運動不足による肥満が原因です。 さらに,恐ろしいのは合併症です。『神経障害』『腎症』『網膜症』は三大合併症と呼ばれ, 発症すると生活上様々な支障が生じます。ですから血糖値のコントロールだけでなく合併症の予防も大変重要です。
漢方での考え方
漢方では古くから『消渇(しようかち)』と呼ばれる病気が知られています。その症状は,食欲が旺盛となる多食, のどが渇いて飲水を欲する多飲,そして多尿となり,進行すると体がやせていきます。 この経過が現在でいう糖尿病に類似するとして,糖尿病に対しても消渇(しようかち)の治療法が用いられてきました。 使用される薬草は,ジャノヒゲの根である麦門冬(ばくもんどう)やキカラスウリの根である天花粉(てんかふん)など, 体を潤す生薬が主体です。また,オウレンの地下茎である黄連(おうれん)や石膏(せつこう)など, 機能亢進(食欲過剰やのどのかわき)を抑える生薬もよく使用されます。 しかしながら,当然昔は血糖値を測定するなどの術はありませんから「糖尿病=消渇(しようかち)」とはいえません。 さらに現代の肥満型の糖尿病や,自覚症状の不確かな糖尿病には適合しない場合も少なくありません。 一方で,深刻な合併症を抱える人の数は増加しており,このような現況の中で,昨今,血流に注目した合併症の予防と, 糖尿病の体質改善に関する研究が盛んに行われています。そんな研究をもとにした日本・中国での糖尿病に対する 漢方薬利用について次にご紹介させていただきます。
糖尿病と血行障害の関係
日本での新しい見解
下野新聞に『つくば市の歯科医,松本行洋さんらの研究チームが, 生活習慣による糖尿病(2型糖尿病)は毛細血管の血流が滞ることから始まるとう学説をイギリスの医学誌に発表した』 という記事が掲載されました(H16年2月)。従来,毛細血管循環の悪化は糖尿病の結果とされていた関係をひっくり返す内容です。 運動不足,ストレス,過食などによって毛細血管の血行不良が発生し,そのことで血糖値を下げるインスリンの運搬・ 作用が低下し,糖尿病への悪循環や合併症へと進展するという説です。いずれにしましても,血行をよくしていくことが 大切と言えそうです。
血行障害に用いられる漢方薬
中国中医科学院広安門病院の副院長で,中国医学による糖尿病治療の 第一人者である仝小林(トン・シャオリン)先生によると,肥満症や糖尿病といった代謝異常による疾患には程度の差はあっても血行障害があり, 血管保護・血行改善が大切であるとのことです。血行改善に優れる生薬としては丹参(たんじん),川芎(せんきゅう),桃仁(とうにん),紅花(こうか) などが挙げられ,さらに重度の血行障害にはチスイヒル,ミミズ,シナゴキブリといった虫類の生薬(薬用に養殖されたもの) を利用することもあるとのことです。
正しい診察と症状にあった投薬
実際の漢方治療では,血行改善だけでなく,様々な体質を考慮して薬を選択します。漢方薬を用いるメリットは, 随伴する症状や体質を改善することにより,糖尿病の悪化や合併症の発生に対する,軽減・予防効果が期待できるということです。
ただし糖尿病の治療では,食生活の改善や運動も大切で,さらに様々な血糖降下薬やインシュリン製剤といった西洋薬が必要な場合も少なくありません。糖尿病と診断されたらきちんと医師の診療を受け,その上で漢方薬の利用をご検討下さい。
※実際に漢方薬を使用する際は、詳しい相談の上,服用下さい。
執筆者情報

研究報告・講演等
翻訳
- 小児疾患と湿熱の関係
(中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英) - 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
(中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他) - 眼科領域における細辛の臨床応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
(中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福) - 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
(中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧) - 「気」の中医的概念と理気の方薬
(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
(中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武) - 「風薬治血」-風薬による血病治療
(中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶) - 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
(中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌) - 補陽還五湯の応用
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(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南) - 温胆湯の症例報告
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
