漢方の生薬
厄除けの薬草「オケラ」《NaturalLife17_’12.1》
大学時代,八王子から電車とバスを乗り継いで相模原市にある石老山へしばしば植物採集に出かけていました。石老山での収穫で最も印象深いのは“オケラ”です。地中に生息する螻蛄ではなく,キク科植物の一種でアザミを地味にしたような花を付ける「朮」です。万葉集には“うけら”という名で登場するなど,私たちの生活にも古来身近なものであったようです。薬用植物としても代表的な物で,なおかつドクダミのようにありふれた物ではなく,薬科大生の私にはとても嬉しい収穫だったのです。
オケラの根茎は「白朮」という生薬になり,近縁のホソバオケラの根茎は「蒼朮」という生薬になりなります。総じて「朮」と呼ばれ,胃腸を丈夫にし,水分代謝を改善しますが,白朮はより胃腸を補うことに優れ,高麗人参などとともに胃腸虚弱に多用されます。一方蒼朮は水分代謝の改善に優れ,いわゆる水毒を消散させるのに役立ちます。ともに芳香が特徴的ですが,蒼朮の香りは強く,刻んで放っておくと,その切断面はまるでカビが生えているかのように精油成分の白い結晶で覆い尽くされます。
ヨモギやショウブなど芳香に特徴のある植物は,しばしば厄除けの効用があるとされ,オケラもその一つとなっています。
祇園祭などで有名な京都の八坂神社では,元日に「白朮祭(をけらさい)」という神事を行い,一年の安泰を祈ります。片木にオケラを混ぜて焚いた火は「をけら火」と呼ばれ,独特の香りを放ちます。参拝者は「をけら火」を吉兆縄にもらい受けて持ち帰り,無病息災を願って神棚の蝋燭に火をつけたり,雑煮を炊く火種とするそうです。この参拝は「をけら詣り」と呼ばれます。
元日の朝にはお屠蘇を飲まれた方もおられたことでしょう。お屠蘇は日本酒に味醂などを混ぜ,屠蘇散と呼ばれる薬草の処方を漬け込んだものです。やはり邪気を祓い長寿を祈念する習慣です。屠蘇散の処方には種々ありますが,欠かすことができないのが朮です。そのほか山椒やニッキ,丁子,桔梗などが入ります。
胃腸虚弱で冷えやすい方の処方に白朮を入れるとき,あらかじめ白朮を焙烙などであぶることがあります。あぶる際に立ちこめる芳香はついでに薬局の厄除け・邪気祓いにもなっているようです。
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研究報告・講演等
翻訳
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(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
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(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
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(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
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(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
