逍遙記
五感で覚える《NaturalLife34_’13.7》
大学1年生の夏休みに,私は所属していた植物研究部の合宿で青森県を訪れました。奥入瀬渓谷での観察会の途中,部の顧問で薬用植物学の教授であった指田豊先生に突然他の部員とともに叱られました。「今の学生は覇気がない!」と。普段物静かな先生に「覇気がない」と言われ,皆目を丸くして驚きました。
植物を勉強するとき,花の香りや葉の感触は大変重要です。とくに葉に細かい毛が生えている物はルーペでそれを視認したり,葉を指でよじって香りを確認するといった,五感を使うことが植物の記憶に役立ちます。植物を好きな人は自然とそういった行動ができ,指田先生も部員にそれを求めていたのでしょう。先生の話を聞きながら時折メモをとる程度では植物図鑑を眺めているのと何ら変わりなく,部員に“やる気”を感じなかったのも無理のないことです。
それから二十余年,薬学部も大分様変わりをしました。最大の変化は6年制になったこと。5年生になると,学生は病院や薬局で実習を行います。様々なカリキュラムの中に漢方製剤実習が組み込まれています。漢方製剤の指導ができる薬剤師はそれほど多くないため,私も微力ながらお手伝いをしています。年間約三十名の学生に指導する機会があります。
漢方薬は植物・動物・鉱物などを加工した生薬の組み合わせです。漢方薬の特性を知るには材料である生薬を知る必要があります。限られた実習時間ですが,できるだけ生薬の香りや感触を大切にして欲しいと考え,五感を刺激する風味豊かな生薬を準備して臨んでいます。
一般に病院や調剤薬局で扱われる漢方薬は成分抽出後のエキス顆粒剤です。エキス剤によって利便性が向上し,漢方薬の普及が進んだことも事実です。エキス剤の品質も良くなっていますし,当薬局でも汎用します。漢方製剤実習が課されているのは,薬局機能の一つを学習することに過ぎないのですが,漢方薬の本質であり,また医薬品の原点である生薬に触れる機会は,今後も継続しなければなりません。
今年5月に指田先生が植物写真家の木原浩さんとの共著で新しい薬草図鑑を出されました。あとがきで木原さん曰く「この企画に意欲を持ったのは,指田先生の前著を読んでいたこともあります。難解になりがちな生薬の話を実にわかりやすく解説され,植物が好きで好きでたまらないということが文面から伝わってきます。」これを読み,冒頭の苦い思い出がよみがえったのでした。
執筆者情報

研究報告・講演等
翻訳
- 小児疾患と湿熱の関係
(中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英) - 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
(中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他) - 眼科領域における細辛の臨床応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
(中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福) - 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
(中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧) - 「気」の中医的概念と理気の方薬
(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
(中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武) - 「風薬治血」-風薬による血病治療
(中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶) - 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
(中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌) - 補陽還五湯の応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華) - 黄耆の運用経験
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春) - 黄耆の医案3例
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌) - 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸) - 応用範囲の広い温胆湯
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南) - 温胆湯の症例報告
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
