漢方の生薬
牡丹と漢方《NaturalLife65_’16.5》
「立てば芍薬,座れば牡丹,歩く姿は百合の花」・・・美しい人を形容する有名な言葉です。牡丹,芍薬,百合の三種がもともと美しい花であることを誰もが認めるからこそ成立する言葉であり,実際,これら3種に関しては様々な観賞用の品種が作られています。
真岡市にある井頭公園内には,様々な品種の牡丹を集めた牡丹園があります。ちょうど5月上旬は最も美しい見頃を迎えているのではないでしょうか。
井頭公園の牡丹(原種)
牡丹,芍薬,百合には美しいだけでなく,地下部が薬草になるという共通点があります。とくに芍薬と牡丹は相当な使用量があり,重要な汎用生薬といえるでしょう。
牡丹と芍薬にはさらに共通点があり,それは植物の分類学上,どちらもボタン科ボタン属に属するということです。ですから牡丹と芍薬の花は非常に似ています。牡丹の方が大きく,花期がやや早いという差異はあります。また芍薬は草の類であり,牡丹は木の類であるという点も異なります。芍薬が茎をまっすぐ伸ばすのに対して,牡丹は枝分かれしながら横への広がりを持ちます。そのため「立てば芍薬,座れば牡丹・・・」となるわけです。
薬草としての牡丹に注目してみたいと思います。牡丹の根は中央に一本芯が通っており,この芯を抜き取って乾燥したものが生薬となります。生薬名は牡丹皮(ボタンピ)です。
牡丹皮
牡丹皮には血行改善の作用や,炎症やのぼせの熱を冷ます働きがあります。血行改善の目的で使用する時には桃の種やベニバナなどと一緒に用いられます。代表的な処方には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん),温経湯(うんけいとう)などがあります。のぼせの熱を冷ます時にはクチナシの実と併用することが多く,代表的な処方には加味逍遙散(かみしょうようさん)などがあります。
今挙げたこれら3つの処方は,ともに芍薬も含まれ,女性の月経不順や更年期障害の改善を目的としてよく使われます。服用して体調が整えば,体の中から美しくなり,「立てば芍薬,座れば牡丹・・・」となるかもしれませんよ。