季節・天候と漢方
夏バテの漢方薬《NaturalLife79_’17.8》
今年も暑い日が続いています。まだまだ長い残暑を思うとうんざりです。しかし漢方の古典には夏の養生の一つとして「心を愉快にして怒ってはならない」とあります。気持ちを発散し,陽気が内にこもらないようにするという教えです。熱くなると余計に暑くなりますからね。
さて,冷房の使用や水分の摂取が叫ばれています。とくにお年寄りや小さいお子さんでは気温変化や咽の渇きへの感受性が弱い可能性があり,注意が必要とされています。その一方で,室温と外気温との差が大きいために,自律神経には大きな負担がかかります。このことが疲労の一因になることも考えられます。
疲労回復にはバランスのよい栄養摂取と十分な睡眠が何よりも有効です。とは言え,暑さが厳しいときには食欲は減退し,食事はさっぱりとしたもので済ませたくなります。そのような時でも,素麺だけとか,アイスだけといったことにせず,野菜や肉・魚もあっさりとした調理で摂取できるよう工夫したいものです。体がだるいときには胃腸も疲れていますから,油っこい物や食べ過ぎ・飲み過ぎは控えるべきです。
また,よく冷えた飲食物は内臓を冷やしすぎてしまう恐れがあり,こちらも控えめにする必要があります。せいぜい暑い場所での一時しのぎと考えましょう。
漢方薬による対策を考えますと,とくに夏季に消耗される体力と水分を補うには生脈散(しょうみゃくさん)が適しています。また全身の体力低下に対する補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は季節を問わず汎用される処方です。この補中益気湯に前出の生脈散を加え,若干の加減を施した清暑益気湯(せいしょえっきとう)は,数年前に顆粒剤が発売され,使用頻度が増えています。また,体内に熱がこもって大量に発汗,咽は大いに渇き,水を多飲せずにはいられない状態には白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)という大熱を冷ます処方があります。
熱中症は大量の発汗に対して,水分や塩分の補給が間に合わず,身体の適応障害が起こり,めまいや頭痛,吐き気などが発生します。五苓散(ごれいさん)は血管外の水分を血管内に引き込むことによって熱中症の予防や軽減に役立つと考えられ,夏季に多用される処方の一つです。