漢方日記

治りにくい後鼻漏(こうびろう)の対策《NaturalLife130_’23.6》

後鼻漏は鼻水がノドへ流れ落ちることによって生じる症状です。そのこと自体も不快ですが、咳がでる、痰がからむ、ノドの違和感・異物感・詰まり感、睡眠障害など、様々な症状が伴います。後鼻漏ではなかなか改善せず、治療が長引くケースが少なくありません。

鼻水は正常な状態でもノドに回っています。鼻の粘膜や鼻の周りの空洞である副鼻腔の粘膜では、1日に1~2リットルの鼻水が分泌されていると言われています。鼻水は鼻の粘膜を潤し、体の外から入ってくる異物をキャッチして排出する働きがあります。さらに外から吸い込む空気を湿らせたり、温めたりする役割も果たしています。

何らかの原因で、鼻水の量が増えたり、鼻水の粘性が上がってネバネバした状態になったり、あるいは鼻水をノドへ運ぶ粘膜の機能が衰えると、後鼻漏を来たす恐れがあります。

この何らかの原因として多いのは蓄膿症、アレルギー性鼻炎、かぜ症候群といった疾患です。それぞれの疾患の治療をすることで、後鼻漏も改善します。慢性の蓄膿症やアレルギー性鼻炎は体質との関連もありますので、根治は容易ではありません。食事や生活習慣の見直しも必要でしょう。

時に耳鼻科での診療で鼻水の異常がないにも関わらず、後鼻漏の症状を訴える方がおられます。この状態を後鼻漏感(こうびろうかん)と呼びます。主にはノドの炎症や胃酸の逆流などが原因で、時にストレスなどによる心因性の後鼻漏感も見られるとのことです。

また、次のような方は後鼻漏や後鼻漏感が治りにくいと言われています。鼻の手術をしたことがある方、口呼吸の多い方、50歳以上の中高齢者などです。鼻の手術では鼻の粘膜の機能が衰えている可能性があります。口呼吸では外気や異物などを口から吸い込んでノドの炎症を来たし、粘膜が敏感になるために後鼻漏を感じやすくなります。加齢による変化では、鼻の粘膜の萎縮が関連します。鼻の粘膜が萎縮すると冷たい外気を温めたり、乾燥した空気を湿らせたりする鼻の生理的機能が鈍くなります。鼻腔内が冷えていると、肺から出てくる温かい息が鼻の奥で急激に冷やされ、結露が発生して鼻の奥にたまります。また外からの乾燥した空気を加湿できないと、鼻のつきあたりにある上咽頭の粘膜が乾燥し、鼻水が粘稠になってはりつきます。さらにかさぶたとなってくっつくこともあります。このことも後鼻漏の原因になります。鼻の周りを温めたり、血行を良くすることが改善につながります。漢方では粘膜の修復や免疫力の向上のために黄耆(おうぎ)という生薬を多用します。また粘膜を潤して血行をよくする生薬には当帰(とうき)があります。黄耆や当帰を含む処方には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などが有名です。また加齢による粘膜の萎縮には補腎薬と呼ばれるグループに属する処方により、萎縮を改善していきます。補腎薬には六味地黄丸、八味地黄丸、麦味地黄丸などがあります。これらの処方で体質の改善を図りつつ、実際の自覚症状を軽減させる生薬を適宜併用することが効果的と考えられます。

Natural Life No.130
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2023年6月号に掲載