漢方日記

竜の字の付く漢方処方《NaturalLife135_’24.4》

前回(2024年2月号)の本欄では『竜の字の付く生薬名』をご紹介しましたが、今回は処方名に竜の字を含むものをとりあげます。ちなみに生薬とは薬の原料となる植物、動物、鉱物などから薬用部位を採取し、簡単な加工を施して薬としたものをいいます。簡単な加工とは裁断や乾燥、塩漬け、酒漬け、炙りなどで、生薬の性質や使用目的に応じて行います。それら生薬を組み合わせたものが漢方処方となります。

さて、漢方処方を記した書物の中でも、千八百年ほど前に書かれた傷寒論(しょうかんろん)には今も活躍する多くの処方が掲載され、有名な葛根湯もその一つです。また春に使用頻度が多い小青竜湯(しょうせいりゅうとう)も傷寒論の処方です。

小青竜湯はやや寒気がして、粘度のうすい鼻水やたんが多く出て、咳などを伴ういわゆる鼻風邪に用いられる処方です。このうすい鼻水やたんを目標に、花粉症にも応用されるため、春に大活躍をすることになります。私が留学中にお世話になった南京中医薬大学の黄煌教授はこのうすい鼻水やたんを青竜痰と呼び、小青竜湯を用いる特徴として強調していました。もし鼻水やたんの色が黄色などに色づく場合は他の処方を検討すべきです。

青竜は元来中国の神話に登場する天の四方を守る四神の一つです。東を守る青竜、南の朱雀、西の白虎、北の玄武が四神です。朱雀の朱は赤を意味し、玄武の玄は黒を意味します。相撲の土俵上に青房、赤房、白房、黒房を垂らすのも同じ由縁です。また四神は順に春・夏・秋・冬の四季と関連し、そこから青春・朱夏・白秋・玄冬といった言葉が生まれています。

傷寒論には小青竜湯の他に大青竜湯という処方もあります。ともに名前に青竜を含むのは青(緑)色の麻黄(まおう)という生薬を含むためといわれています。ただし、麻黄を含む処方は他にも多々あります。

写真 青々と伸びる麻黄

国際医療福祉大学薬草園2021年6月

今出てきた大青竜湯は小青竜湯を強くしたものかというと、単純にそうとはいえません。確かに薬の力は大変に強いものなので、虚弱な方には使えません。大青竜湯は発熱、悪寒があり、節々が痛み、発汗はなく、煩燥(はんそう)のある人に使います。煩燥は熱によって起こる胸苦しさです。悪寒もありますから複雑な状態といえます。

また留学中の授業で出てきた処方に黄竜湯(おうりゅうとう)があります。体力が落ち、そして体の中に熱がこもった状態に用います。黄色は中央を表し、人体では胃腸を意味します。胃腸を補う力の強い人参を含むことが名前の由来という説があります。黄竜湯は日本では製剤化されていません。黄竜湯が必要な状況では、複数の処方を組み合わせて対応する必要があります。ちなみに文献的には黄竜湯という名の全く異なる複数の処方が存在します。

そのほか竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこぼれいとう)などは、前回ご紹介した竜胆、竜骨という生薬の名を含んだ処方名になります。

 

Natural Life No.135
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2024年4月号に掲載

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会