漢方日記

冬の養生《知って得する漢方41_’10.1》

冬の間,風雪厳しい野山では,秋のうちに食料をため込んだ動物たちが巣穴にこもり温かい春の訪れを待ち,植物たちもその成長を緩めて芽吹きの時に備えます。人間も自然界の一部であるとする中国医学の考えに従えば,冬には派手な行動を慎んだ方が良いようです。

漢方の古典『黄帝内経』(こうていだいけい)

約二千年前に書かれたとされる医学書『黄帝内経』では冬の養生について次のように説いています。『冬は万物が営みをひそめる季節。夜は早く寝て朝はゆっくりと起き,日の出・日の入りにともなって起居する。志や欲望は心にひそめ,すでに成し遂げたような気分でいる。』心身の陽気を表に出さずに守ることを強調しています。つまり体の冷えや心身の過労を避けることが大切です。実際に冬によく見られる感冒や神経痛,脳卒中などは,冷えと疲労が引き金になることが少なくありません。

さらに『黄帝内経』では『冬の養生を怠ると「腎」を病み,翌春に足がしびれ,腰が曲がる病気になる』とあります。古来「腎」は,人間の成長・生殖・老化・免疫などに関わる根源的な力を蓄える臓器で,膀胱・骨・脳・耳・足腰・生殖器などの機能を調整するとされています。ですから「腎を病む」といっても,腎臓病になるというわけではなく,足・腰・耳の障害や排尿困難,月経不順などと関連します。

体を温め,体に優しい生活を!

寒いときには鍋料理など温かい食事を取りたくなりますね。冬場は根野菜や白菜が豊富ですから,ぜひ温かく調理して召し上がって下さい。その際,ショウガやネギ,唐辛子など,体を温めるものを利用するとより効果的ですが,あまり刺激が強いと胃を痛めることもありますのでほどほどが肝腎です。また肉や魚,大豆などで得られるタンパク質は,血肉の源であり,体の保温にも役立ちます。肉では脂肪の取りすぎに注意して,バランスの良い食事をこころがけましょう。一方夏に好まれるビールやアイス,夏野菜,南国の果物などは体を冷やします。控えめにしましょう。

室温や衣服でも配慮が必要です。子供の場合,あまりぬくぬくと育てると弱い子になるということも言われますが,冷飲食が多く,屋内での遊びが盛んな現代では,冷え症の子が増えているようです。それぞれの体力に合わせて考えるべきなのかもしれません。また女子高生が足を寒風にさらしている姿をよく見かけます。将来,子供を妊娠・出産するためにも体を温め,腎を守ることが大切だと思うのですが。

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会