漢方日記

名演を生む主役と脇役《NaturalLife5_’10.10》

漢方処方は一般に複数の生薬の組み合わせで成り立ちます。一つの漢方処方の中には中心となる生薬が一つか二つあり,その生薬を「主薬」,あるいは「君薬」と呼びます。主薬以外の生薬は,主薬の作用を補助するために配合されるのですが,時には随伴する症状の治療が目的であったり,主薬の副作用を抑制するためなど,様々な役割を分担しています。その構成はまるで映画の主役とそれを引き立てる脇役の様でもあり,はたまた一つのチームや組織にも類似しています。同じような薬効の生薬ばかりを集めても,良い処方にはならないのです。

たとえば有名な葛根湯では,体を温めて発汗を促したり,筋肉のこわばりや節々の痛みを緩和させることを目的とした生薬が中心となりますが,さらに胃腸を保護したり,種々合わさった生薬を調和させるための生薬なども含有され,計七種類の生薬で構成されることになります。

種々の生薬を調和させるための生薬とは何とも面白い概念ですが,この役を担っているのは,もっぱら甘味があって作用の穏やかな甘草(カンゾウ:マメ科ウラルカンゾウなどの根)です。甘草はこの目的で七割近い漢方処方に配合されると言われています。

主薬を君薬と呼ぶ場合,それは国の君主に相当する称号を意味します。そしてその家臣達たる生薬を,臣薬,佐薬,使薬と呼び,役割の重要度により分類します。

前出の甘草の役目は最下位の使薬に当たるのですが,映画でたとえれば脇役中の脇役,つまり名脇役と呼ばれる存在と言えるでしょう。

漢方では患者さんの症状と体質に合わせた処方を選択するわけですが,いかに優れた生薬チームを構成させるかということが治療効果を左右するのです。

名脇役の甘草も,時に主役(主薬)として活躍することがあります。状況に応じた配役のバランスが名演を生むのであり,これは様々な世界や社会にも通じることでしょう。