漢方の方剤
冬に活躍する膏方(こうほう)《NaturalLife16_’11.12》
現在,最も使用される漢方薬の剤型は顆粒剤でしょう。生薬から煮出した成分にデンプンなどを加えて乾燥させ,インスタントコーヒーのような粒状にした物です。
また,伝統的な漢方薬の剤型では煎じ薬が思い浮かびます。生薬を水から煮て,煮出した汁を服用します。葛根湯(かっこんとう)のように○○湯と呼ばれる処方は,本来,煎じて服用する漢方薬です。
ところで漢方薬には加味逍遙散(かみしょうようさん)や,八味地黄丸(はちみじおうがん)のように○○散,○○丸と命名された物があり,これらは元来煮出す薬ではありません。
○○散は散剤または散薬と呼ばれ,生薬を挽いて粉とし,調合したものです。服用時,薬の粉が口内にくっつくなどして多少飲みにくさを感じます。この「散」の字は剤型を表すだけでなく,「散らす」意味にも通じ,体内を流れる気・血・水などの停滞や,腫瘍などの固まりを消散させる力があると言われます。
○○丸は丸剤または丸薬と呼ばれ,粉末状にした生薬を蜂蜜や米糊などで煉って球状にします。体をじっくりと補っていく処方に多用されるほか,携帯性や,揮発成分の封入性に優れた製法ともいえます。
他にも様々な剤型がありますが,とくに冬に多用されるものに膏方があります。伝統医学では,冬は他の動物が身を潜めるのと同様に,人も活動を控えて滋養に努め,陽気の発散を防ぐ季節とされています。その滋養に役立つのが膏方です。作り方は滋養性の高い様々な生薬を長時間煮詰めて濾した液に,蜂蜜や水飴,膠などを加えてシロップ状にします。それを冬の間をかけて毎日服用していくのです。とくに上海では秋になると商品化された膏方が薬局店頭に並び,さらに病院ではオリジナルの膏剤を求める患者のために膏方外来が開かれるとの事です。
日本で流通する膏方には「瓊玉膏(けいぎょくこう)」や「当帰養血膏(とうきようけつこう),婦宝当帰膠(ふほうこうきこう)」などがあります。前者は養生・長寿に効果があるとして中国・韓国の皇帝や徳川将軍家でも服用された記録が残っているそうです。後者は血液の栄養状態を改善し,月経不順や更年期障害に悩む女性に適します。
膏方のよい点として,じっくりと煮込んでいくことで胃腸に優しくなることが挙げられます。滋養に優れる薬草の中には胃腸の負担になる物があり,丸薬などではしばしば胃腸障害が問題になるのです。
膏方は寒く乾燥した冬を乗り切るために,伝統医学の智恵が活かされた剤型です。