漢方日記

冷えや痛みに有効な生薬「附子」《NaturalLife8_’11.1》

狂言『附子(ぶす)』で,主人は太郎冠者(かじゃ)と次郎冠者に「この桶の中には附子(ぶす)という猛毒が入っているから注意せよ」と言い置きして留守を任せますが,二人は怖いもの見たさから桶のふたを取ってしまいます。すると入ってたのは砂糖。二人は桶を取り合いながら食べつくしてしまいます。その言い訳の言動が次の有様。主人秘蔵の掛軸や茶碗を滅茶苦茶にし,やがて主人が帰宅すると二人揃って泣き出し「お留守の最中に居眠りをせぬよう相撲をとっているうちに,大切な品々を壊してしまったので,死んで詫びようと猛毒の附子を食べたがまだ死ねません。」主人は怒り,逃げる二人を追いかけて終わります。

さてこの附子,現在は「ぶし」と呼ばれますが,毒草として知られるトリカブトの根です。トリカブトは毒性が強いために昔から世界中で中毒事故や矢毒に利用された記録などがあり,様々な物語にも登場します。

ところが漢方では古くから生薬として多用され,虚寒証(きょかんしょう:抵抗力が低下し,体が冷えている状態)における,痛みや麻痺,感冒などの諸症状に適応します。

この強い毒性を持つ附子を薬として用いるために,昔から中国でも日本でも様々な減毒技術が研究されています。塩水につけたり,石灰をまぶしたり,加熱処理,高圧蒸気処理などが行われます。

この高圧蒸気処理による減毒法で1963年に日本で初めて製法特許を取得した三和生薬株式会社は宇都宮の平出工業団地に本社・工場を置いています。北海道の専用農場で独自に品種改良をしたトリカブトを栽培し,附子を含む漢方処方の製剤に注力しています。

慢性の痛みに対する漢方治療では,血流を改善する,体を温める,筋骨を丈夫にするといったことを状況に合わせて行います。とくに冬場は寒冷の気候のために血行障害や筋肉の緊張などが引き起こされ,痛みの悪化を見ることがしばしばです。そのような時に附子を含む方剤が活躍します。ほんの少量の附子でも奏効を現すことがあり,先人達が苦労して減毒化をなしえたことに感謝せずにはいられません。

減毒した附子ですから,安心・安全に使用できるようになりましたが,それは適切に用いてこそです。薬としての性質はやはり強いと言えます。とくにのぼせや動悸のある場合には慎重に使用する必要があります。

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会