漢方の考え方
自然治癒力と漢方《NaturalLife9_’11.2》
体には本来,病気やケガを自力で治そうとする仕組みが備わっています。その力は自然治癒力あるいは自己治癒力などと呼ばれています。たとえば軽いカゼなどで,とくに治療をしなくても治ってしまった経験は,どなたにもあることでしょう。漢方薬にはその自然治癒力を向上させる働きがあると言われています。
冬場の寒けを伴うカゼには,葛根湯が繁用されます。葛根湯には体を温めて発汗を促す働きがあり,原典では服用して少し汗ばむ程度に何かで覆って保温するよう指示されています。現在では発熱は体の抗病反応であり,体温を上げることで体内の免疫細胞が活発に働き,ウイルスを排除することが分かっています。ウイルスとの戦いが終われば発汗して熱が下がります。しかし漢方では,発汗によってカゼの悪い邪気を追い出すのだと考えていました。いずれにせよ,体を温める薬草をうまく利用して,カゼの初期に起動する自然治癒力をパワーアップさせているのです。
ところで,発汗が起きても熱が下がらなかったり,随伴症状が改善しないこともしばしばあります。その原因は様々ですが,漢方ではその人の体質や発症からの経過を考慮し,その時々に合う薬の選択を行います。体力が無くカゼの初期から汗ばんでいる場合にはより穏やかな桂枝湯が適します。また寒けがなく,火照りやのどの痛みなど熱感の強い場合には銀翹散が用いられます。
カゼが長引いている時,漢方では邪気が一段と体の奥に入りつつあり,寒けや咳,節々の痛みといった表面的な症状から,気持ちの悪さなどの内部の症状に移行してくると考えます。そのような状況では発汗で邪気を追い出すわけには行かず,柴胡という薬草が有効であるとされています。代表処方は小柴胡湯です。科学的に,小柴胡湯には感冒によって崩れてしまった免疫細胞のバランスを改善する働きがあると言われており,やはり自然治癒力を手助けしていることうかがえます。
科学が発展する中で,漢方薬の作用についても部分的に解明されつつあります。そういった結果からも,咳には咳止め,熱には解熱薬といった単純な考え方ではなく,病気に対する複雑な人体の反応を漢方なりの解釈を行い,まさに自然治癒力を補助する手当てを行っていることが見えてきます。
執筆者情報

研究報告・講演等
翻訳
- 小児疾患と湿熱の関係
(中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英) - 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
(中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他) - 眼科領域における細辛の臨床応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
(中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福) - 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
(中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧) - 「気」の中医的概念と理気の方薬
(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
(中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武) - 「風薬治血」-風薬による血病治療
(中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶) - 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
(中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌) - 補陽還五湯の応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華) - 黄耆の運用経験
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春) - 黄耆の医案3例
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌) - 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸) - 応用範囲の広い温胆湯
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南) - 温胆湯の症例報告
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
