漢方日記

夏の陽気対策《NaturalLife13_’11.6》

夏の気候の人体への影響を陰陽説という自然観を使って説明してみたいと思います。

陰陽説は世の中の事象を陰の要素と陽の要素に二分する考え方です。明るい物,温かい物,活動的な物は陽で,暗い物,冷たい物,静的な物は陰となります。陰と陽は対立するばかりでなく,事柄によっては支え合ったり,移り変わったりする場合もあります。例えば火は陽で水は陰,昼間は陽で夜は陰。人体では気(気力・体力・作用など)は陽で,血・肉・骨・水分などは陰に属すると考えます。

季節の場合は,春夏は陽で秋冬は陰です。とくに夏は陽気の強さが極まる時です。よって日差しは強く,気温も高まります。当然人体も影響を受け,体内の陽気が高まります。つまりは活動が盛んになり,気や血がよく巡るようになるのです。汗孔が開いて汗が出るのは,体内に陽気が鬱積するのを防ぐためです。

ここで重要なのは,陽気の高まりによって盛んになる生命活動の裏には,陰の部分の支えがあるということです。血液や水分があってはじめて,陽気の働きができるのです。活動が盛んであるということは消耗も激しいということですが,血液や水分といった陰分が充実しているみずみずしい身体は,陽気の強い季節でも,比較的暑さに耐えることができます。つまり夏バテや熱中症になりにくいといえます。子どもの場合は一般に水分率が多いのですが,絶対量としては少なく,体温調節能力も未熟なため注意が必要です。また水太りタイプは,有効に利用できる水分が反って少なく,夏バテしやすい体質です。

盛んな陽気を抑制して陰陽のバランスを整えるのに,夏野菜は非常に役立ちます。きゅうりやトマト,西瓜,苦瓜,冬瓜などは,身体を潤し,体内にこもった熱を取り除く働きがあるとされています。朝鮮人参・麦門冬(ばくもんどう)・五味子(ごみし)という3つの生薬からなる生脈散(しょうみゃくさん)という漢方処方は,発汗で失われる水分を補充し,血液や粘膜を潤しますので,夏の消耗から身体を守ってくれます。また身体の陰分は陰の時間帯,つまり夜,身体を休めている間に蓄えられます。ですから睡眠時間も大切です。

水分や栄養の補充の際,過剰になると身体の新陳代謝を邪魔する水毒を生じることになります。とくに糖分や油脂類,冷たい物の摂りすぎは禁物です。水毒も夏バテや夏カゼの原因となります。過ぎたるは及ばざるが如しですね。