逍遙記
日中関係を考える《NaturalLife26_’12.10》
9月中旬,ある漢方研究会の全国大会が東京で開催されました。中国からも来賓や講師として大学教授などが招かれていましたが,“諸事情により不参加”とのことで,昨今の日中関係の影響を身近に感じることになりました。
私は12年ほど前に中国の南京市へ渡り,約2年間の留学生活を送りました。かつての南京事件の記憶が残る南京は,反日感情の強い所という印象をもたれています。実際に南京事件を巡る発言から友好関係に影響する出来事がたびたび発生しています。しかし留学中の私が身の危険を感じたことは一度もありません。日本人であることを伝えても嫌な顔一つされず,それどころか興味津々でいろいろな質問をしてきたり,世話を焼いてくれたりと,皆親しく接してくれました。
とくに印象深いのは恩師の一人である謝先生です。当時,謝先生は80歳を過ぎていましたが,大変な名医として活躍されていました。当然戦争を経験されており,過去に日本をどれほど恨んだことかわかりません。しかし私に対する指導は懇切丁寧で,今振り返っても有り難く感動的な経験です。
2010年3月,日本政府の資金援助で「中日友好柔道館」が南京にオープンしています。発案者はロス五輪金メダリストの山下泰裕さんです。山下さんは「日中の相互理解を進めるのに,南京よりふさわしい場所はない」との思いを語っておられます。さらには南京の中国人,在南京の日本人らとの交流を通じて,南京は決して反日的な所ではないと訴えられています。
南京では両国有志によって桜の植樹も行われており,その数は1000本を超えるそうです。また京都大学への留学経験がある南京中医薬大学教授の黄先生は,日本でお世話になったお礼をしたいと,中秋節に日本人留学生を招いた月見会を開いているそうです。
日中間には数え切れないほどの友好関係・協力関係の証が存在することと思います。こういった友好の輪は決して歴史問題や領土問題を払拭するものではありませんが,互いの立場を理解し,思いやる心や絆を育みます。平和的・友好的な歩み寄りを礎に諸問題を乗り越える努力をしていってほしいものです。