漢方日記

薬膳について《NaturalLife特集_’14.11》

今年9月14日からの6日間,漢方薬局の仲間と研修のため中国を訪れました。5日目に訪問した杭州市には有名な老舗の薬局があり,付随する薬膳料理店で昼食をとりました。漢方でも汎用される薬草などが料理に活かされており,一品一品に料理名と薬効を記したプレートが添えられていました。そのいくつかをまずご紹介します。

きゅうり
キュウリと麦門冬の前菜
体を潤し熱を取る。呼吸器系を潤し,心を落ち着かせる。

百合根
百合根とヒカゲツルニンジンと烏骨鶏のスープ
体力をつける。体を潤し,顔の艶を良くする。

きくらげ
キクラゲの炒め物 クコの実と香菜添え
肺・腎・胃を潤し,食欲を増す。

豚
豚の角煮の金箔載せ
気持ちを落ち着かせる。気や血を補う。

なまこ
霊芝炒りナマコの煮込み
胃・腎を丈夫にする。体を温める。心を落ち着かせる。

     やまいも
揚げ山芋の金木犀シロップ掛け
胃腸を丈夫にする。呼吸器系を潤す。

麦門冬は粘膜を潤す要薬で,慢性の空咳などには欠かせない生薬です。百合根も潤すことに優れ,心を落ち着かせる働きもあります。赤いクコの実はドライフルーツとしても利用されますが,目にいい薬草として知られ薬膳では定番の材料です。金箔には心を落ち着かせる働きがあるとされ,丸薬を金箔で包むことがあります。霊芝は不老長寿のキノコとして古くから珍重されます。山芋は胃腸を丈夫にし,さらに泌尿器や筋骨にも良い薬草です。どの料理も大変美味しく,薬臭いと感じる物はありませんでした。薬食同源の文化を堪能した気分になりました。

しかし食事は毎日のことですから,一食だけ特別な料理を食べてもそれで健康になれるわけではありません。それに毎食この食事で良いのかというと,そうではありません。薬草には本来各人への向き不向きがありますから,このように大衆向けの贅沢な薬膳は観光の中で許されることと認識すべきでしょう。

普段の食事の中では食材のバランスが最も気になる所ですね。それからよく噛んで食べることや,体を冷やさない工夫も必要です。バランスとしては葉物野菜を多くすることが重視されますが,多くの葉物野菜は体を冷やすとされます。とくに寒くなるこれからの季節は,生食ではなく熱を通して食べることが薦められます。また体を温める食材を取り入れることも大切です。温める食材には,ニラ,山椒,ショウガ,シナモン,クローブなどの香味野菜や香辛料,くるみ,黒砂糖,さらには羊肉,鹿肉,エビ,鮭,アジなどの動物性タンパク質が挙げられます。香辛料は摂りすぎると胃を刺激しますので,注意が必要です。動物性タンパク質は野菜の半量程度を心掛けましょう。特別な材料を使わなくとも,体質や季節に合わせた食事を心掛ければ,それが何よりの薬膳です。