漢方日記

フキタンポポ《NaturalLife52_’15.3》

まだ余寒厳しい2~3月ごろ,フキタンポポの黄色い花を見かけることがあります。花期にはまだ葉がなく,背丈の低い茎先に黄色い花を数輪つける姿から,フクジュソウを連想する方もいらっしゃるようです。しかしフキタンポポは,フクジュソウは勿論,フキでもタンポポでもありません。夏に広がる葉がフキに似ており,花はタンポポに似ているためにこの名があると図鑑では説明されています。よく見ると花をつける茎には鱗片様の葉があり,その葉の柔らかそうな薄緑の外感は,どことなく食べ頃を過ぎて伸びてきたフキノトウに似ているように思います。

このフキタンポポは元来日本には自生しません。ユーラシア大陸からアフリカ大陸北部まで広く分布し,ヨーロッパではごくありふれた雑草と認識されているそうです。確かに地味な花かも知れませんが,日本では観賞用の鉢物として,1970年代以降に広く栽培されるようになったとのことです。

またフキタンポポは薬草としても汎用されてきました。自生地域が広いため,ヨーロッパでも中国でも利用されています。その目的は咳止めで,ヨーロッパでは葉を,中国では花蕾を用います。中国での植物名は款冬(かんとう),生薬名は款冬花(かんとうか)です。古来中国では咳の治療に用いる処方に少なからず利用されてきた款冬花ですが,日本での使用はほとんどなく,代表処方として挙げるべきものはありません。

ところでフキに当てられる漢字として「蕗」とともに「款冬」が用いられることがあります。古くから中国の薬物書に記載されていたフキタンポポを,日本に自生するフキと勘違いしたことによると思われます。

フキタンポポ
フキタンポポ

ふきのとう
フキノトウ

写真のフキタンポポは2004年の3月下旬,まだ日陰に雪の残る会津の薬草園に咲いていたものです。同じ敷地内にちょうどフキノトウの姿も見られました。