漢方日記

米の効用《NaturalLife70_’16.10》

日本の国民食といえる“お米”。しかしその消費量は年々減り続けています。現在,日本人一人あたりの米の消費量はピーク時の昭和37年と比べて半分以下にまで落ち込んでいるそうです。その原因としては食の多様化が考えられます。パンや麺などの消費増加が米の消費を抑えていることは容易に想像できますし,ここ数年は糖質制限食の流行があり,この影響も少なくないかもしれません。

昨今,健康的な食事法としていろいろなものが紹介されており,それらを比較すると矛盾が生じることも多々あります。米の摂り方についても様々です。それぞれ根拠・言い分がありますが,それらの善し悪しは他書に譲り,本稿では漢方の見地から米の役割についてお話ししたいと思います。

一言で「米」といいましても,様々な米があります。例えば,粘性の違いから粳米(うるちまい)と糯米(もちごめ)。また色では白米の他に,赤米や黒米などの有色米があります。そして様々な栽培品種(銘柄)があることは言うまでもありません。

私たちが一般的によく口にするお米は白い粳米です。同じ粳米でも精製をしていない玄米は,精白米よりも栄養面で優れており,大変見直されています。漢方薬にはこの玄米を生薬として含む処方があります。生薬名は粳米とかいて“こうべい”と読み,代表処方として麦門冬湯(ばくもんそうとう)や白虎湯(びゃっことう)が挙げられます。

麦門冬湯は粘膜を潤す働きに優れ,咳が長引いて咽の乾燥や,切れにくい痰を伴うときの重要処方です。この処方では,体を補い潤すものとして,麦門冬,薬用人参,ナツメなどとともに粳米が用いられています。

白虎湯は強い熱感と発汗により,口や咽が渇いたり,イライラして落ち着かない状態を治療する処方です。比較的体の熱を取る作用の強い
石膏(せっこう),知母(ちも)という生薬がこの処方の主薬であり,粳米は体を滋養するとともに,石膏・知母による胃腸への障害を和らげる働きを担います。

そのほか中国医学の古典には,粥についての記載が多く見られます。生気を補う,五臓を元気にする,下痢を止める,命のより所である,無理に食べると病を起こす,胃に水分が溜まっているときは控える,病人や産婦は粥で養うのが最適・・・。私たちも小さい頃からカゼの時や体調不良の時,お粥を食べてきました。米にはありがたい力があると先達の経験が語っているように思います。

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会