漢方日記

菊の花《NaturalLife92_’18.10》

秋の代表的な花のひとつに菊の花があります。見て良し、食べて良し、また薬にもなります。

調理法では酢の物が有名ですが、子供の頃は独特の香りと苦みが苦手でした。しかし大人になってみますと、その風味が大変美味しく感じられます。数年前に山形を訪れる機会があり、旅館の朝ご飯で出された地元の菊の花「もってのほか」は名前の通り驚くほど美味しいものでした。

中国では菊の花のお茶をよく見かけます。茶葉とブレンドされていることもありますし、菊の花のみにお湯を注いで飲むこともあります。20年ほど前の話ですが、菊の花の名産地である浙江省で、インスタントコーヒーなどの空き瓶にお茶用の菊の花とお湯を入れて持ち歩いている人を多く見かけたのを覚えています。

菊の花は漢方でも用いられます。生薬名は菊花(きくか)で、疲れ目や目の炎症、めまい、頭痛などに使われています。菊花を含む処方には、高血圧に伴う頭痛やめまいを治療する釣藤散(ちょうとうさん)、加齢や疲労による目の疲れや乾燥に用いられ、飲む目薬と言われる杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)、頭痛に幅広く使われる清上蠲痛湯(せいじょうけんつうとう)などがあります。

さて菊の花には多くの種類が知られています。一般に観賞用、食用そして薬用に栽培されている菊は、イエギクという種類の栽培品種です。イエギクは中国原産で、シマカンギクとチョウセンノギクの交雑種といわれています。このシマカンギクとチョウセンノギクは東アジアに広く分布し、日本にも自生地があります。イエギクは中国で作られた交配種で、薬用を目的に日本へ伝来したと考えられています。

日本の医薬品の公定書である日本薬局方には菊花としてイエギク由来のもの(通称:杭菊花)とシマカンギク由来のもの(通称:野菊花)が規定されています。野菊花はより消炎に優れ、皮膚炎などにも応用されます。

野菊花と杭菊花