腎を補う

漢方の古典に『冬に養生を怠ると「腎」を病み、春に足がしびれ、腰が曲がる病気になる』という言葉があります。古来「腎」は、人間の成長・生殖・老化・免疫などに関わる根源的な力「精(せい)」を蓄える臓器で、膀胱・骨・脳・耳・足腰・生殖器などの調節をするといわれています。現代医学的な「腎臓」の認識である泌尿器の部分も含みますが、もっと大きな概念を有します。古典の「腎を病む」も腎臓病を意味するのではなく、排尿困難や、耳、骨、足腰、脳、性機能などの衰えと関連します。

一般にこれらの衰えは、加齢との関連性が強いです。「腎」が蓄える「精」には年齢的な盛衰があり、このことが各機能と大きく関わっているためです。

精は普段の飲食物の栄養を元に作られ、体が壮健な20代~30代前半は最も精の充実した時です。これを過ぎると精は徐々に減少し、50歳頃に更年期を迎え、女性は閉経となります。

もちろん加齢とは関係なく前出の各機能で衰えがみられる場合もあります。その場合も、先天的あるいは過労などによって精の不足が生じている可能性を考えます。加齢は防げるものではありませんが、精の減少をなるべく穏やかにしたり、減少による症状を緩和する方法はあります。

腎の衰えや精の減少を「腎虚(じんきょ)」と呼び、腎虚を治療する漢方薬を「補腎薬(ほじんやく)」と称します。代表的な補腎薬が八味地黄丸(はちみじおうがん)で、後漢の時代に書かれた古典に登場し、現代でも重要処方です。さらに足のしびれや痛みに対応する生薬などを八味地黄丸に加えた牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)や、子供の腎虚を治療するために八味地黄丸から体を温める生薬を取り除いた六味地黄丸(ろくみじおうがん)も有名です。

また、目の衰えに対応する杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)、耳鳴り治療に用いる耳鳴丸(じめいがん)、のぼせが顕著な時に使用する知柏地黄丸(ちばくじおうがん)、呼吸器系の衰えにも対応する味麦地黄丸(みばくじおうがん)など、様々な補腎薬が創出されています。

これらの補腎薬は植物性生薬が基本になっていますが、鹿の角や亀の甲羅などの動物性生薬を使用すると、補腎の力がより強力になります。

一般に「精のつく食べ物」といわれる鰻や牡蛎、山芋などは、薬膳にも利用される補腎の食材です。とくに山芋は山薬(さんやく)と呼ばれる生薬になり、八味地黄丸等に含まれる重要な生薬でもあります。