漢方日記

『和』で解決する治療法《NaturalLife98_’19.5》

漢方にはたくさんの処方があり、それぞれの作用を活かして様々な治療が行われます。その様々な治療方法を作用の特徴から分類することができます。

たとえば体内にこもる熱や過剰なものを便で出す『下法』、体力や栄養を補う『補法』、温める『温法』、熱をとる『清法』、汗をかかせて邪気を追い出す『汗法』、悪いものを食べたときに吐かせる『吐法』、体内の過剰なものを分解する『消法』、そして連携の乱れや停滞を調和する『和法』などがあります。『和法』はわかりにくいので例を挙げて説明します。

まず、カゼが長引いているときが挙げられます。カゼの初期は邪気がまだ表面浅いところにあり、葛根湯などを使って『汗法』によって治療します。もし邪気が体の内面へ入ってしまったら『下法』などを用います。しかし多くのカゼで、邪気は表面と内面との狭間に停滞する時期が見られます。邪気の停滞により体表と体内の連携が阻害されます。カゼの引き始めから数日が経ち、寒気や鼻水などの表面的な症状は薄れ、体のだるさや熱の上がり下がり、食欲不振などが出てきます。あるいはそこまででなくとも、なんとなくすっきりしない状態が続く場合もあります。いわゆるカゼの中期から後期、カゼで損なわれた体力や免疫力の回復期です。この時には『汗法』も『下法』も適切ではなく、『和法』の出番になります。『和法』に用いられる処方は『和解薬』と呼ばれ、代表処方に小柴胡湯(しょうさいことう)があります。

もう一つ『和法』を用いる例としてストレスによる胃腸障害の治療についてご説明します。ストレスによって食欲が減少したり、逆に亢進したり、あるいは胃痛や腹痛、下痢などが生じることがあります。ストレスが引き起こす神経の緊張・高ぶりは漢方では五臓六腑の『肝』の異常ととらえ、胃腸障害は『脾』や『胃』の問題と考えます。いわば『肝』と『脾・胃』の間の内輪もめです。この間に入って和解させる役を務めてくれるのがまさに『和解薬』です。胃腸障害が見られるときの『和解薬』としては四逆散(しぎゃくさん)や柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などが多用されます。

見方を変えますと、『和法』は自律神経やホルモン、免疫細胞などのバランスを調整する方法といえます。ストレス社会の現代において欠かせない治療法です。

写真:和解薬に多用される薬草
ミシマサイコ
セリ科ミシマサイコ:根は生薬『柴胡(さいこ)』

コガネバナ
シソ科コガネバナ:根は生薬『黄芩(おうごん)』