漢方日記

しつこい咳への対策

風邪のひき始めからある程度時間が経ち、発熱や頭痛などの症状が治まっても、咳だけがしつこく残ってしまうことがあります。何週間も落ち着かず、咳止めもあまり効果がないとき、漢方薬が奏効を示す場合があります。

風邪を引いているときは、身体の免疫システムがウイルス掃討作戦のため、非常事態となっています。ウイルスとの戦いが終わった後、免疫システムの平常復帰や、傷ついた粘膜の修復に時間がかかっていると、症状もなかなか落ち着きません。咳が残る場合には、息苦しくなったり、睡眠の妨げになったり、周囲の目が気になったりとやっかいです。

修復が遅れる原因は様々です。ウイルスの威力が強くて傷跡が大きい場合、もともとの免疫力が低下していた場合、修復に要する栄養や水分が不足している場合などが考えられ、さらに免疫に悪影響を及ぼすストレスや睡眠不足などにも注意しなくてはなりません。

漢方的対策としては、咳の様子や、咳に付随する痰などの状態をよく確かめ、さらに体質を考慮します。風邪の初期と後期では用いる漢方薬は異なります。罹患から時間が経過しているということも大切な判断要素の一つです。

しつこく残る咳の多くは痰を伴わない空咳か、あるいは少量ののどにへばりつく粘痰を伴う咳です。このような時はのどの粘膜を潤す生薬が必要です。もっともよく使われるのはキジカクシ科のジャノヒゲ(かつてはユリ科に分類されていました)の塊根を乾燥した麦門冬(ばくもんどう)です。痰を切るにはサトイモ科のカラスビシャクの地下茎を乾燥した半夏(はんげ)を多用します。痰が多い場合には半夏を重用しますが、痰がないか、あっても少量の場合には、麦門冬を中心にして半夏などを加えた麦門冬湯(ばくもんどうとう)が活躍します。麦門冬湯はこのほか薬用人参や粳米(こうべい・うるち米)、ナツメなどを含み、滋養に優れることが想像できます。

咳止めの効果を高める生薬の一つに五味子(ごみし)があります。五味子は酸味が強く、収斂作用に優れます。収斂作用とは身体から気・血・水などが漏れ出るのを防ぐ働きです。具体的には、多汗、多尿、下痢、多量の鼻水や痰、そして多い咳などによる気や水の排出過多を防ぐのです。五味子を含む処方には小青竜湯(しょうせいりゅうとう)や生脈散(しょうみゃくさん)が有名です。

またのどが腫れていたり、痰や鼻水が黄色などに色づく場合には、消炎の生薬を含む処方を用います。そして変化が見られたらその変化に応じて処方の変更を検討し、治癒を目指します。

写真1:マツブサ科チョウセンゴミシ:紅熟した実を乾燥させたものが五味子

写真2:五味子

Natural Life No.128
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2023年2月号に掲載