漢方の生薬
クララと苦参《NaturalLife136_’24.6》
クララというマメ科の植物があります。可愛らしく洋風の響きがある名称ですが、日本に自生する植物です。あまり有名ではないかも知れませんが、国内の分布範囲は本州以南の日当たりのよい草原や山野の道端、土手などとされています。広い分布範囲とは裏腹に、その個体数は減少しており、県によっては絶滅危惧種に指定されている所もあるようです。チョウの一種、オオルリシジミはクララに卵を産み、幼虫はクララのみを食べて成長します。そのオオルリシジミも絶滅の危機に瀕しています。
写真1 クララ
クララの草丈は大きいものでは1m50cmと人の背丈ほどに成長します。初夏にマメ科に特徴的な蝶形花と呼ばれる形の黄色い花を多数密に連ねて咲かせます。花期の後もマメ科らしく莢に種子を含んだ果実を実らせます。
写真2 クララの花
写真3 クララの果実
このクララ、実は有毒植物として知られています。もっとも毒性が強いのが根とされています。漢方ではこの根を乾燥させて、生薬としてしばしば用います。生薬名は苦参(くじん)といい、消炎の薬草として、内服薬だけでなく外用薬にも利用します。
苦参を含む処方の一つである消風散(しょうふうさん)はかゆみが強くて分泌物が多く、局所に熱感を伴う皮膚炎やじんましん、水虫、あせもなどに用いられます。消風散を構成するのは13種類の生薬で、その中には蝉の抜け殻やゴボウの種、ゴマなども含まれています。
また同様に皮膚疾患に用いることが多い三物黄芩湯(さんもつおうごんとう)は苦参を含めて3種類の生薬のみからなるシンプルな処方です。手足に火照りがあることがポイントで、そのような人の湿疹や皮膚炎、または不眠に用いられます。
さらにシンプルな苦参湯は苦参だけを煎じたものです。この煎じ薬は外用薬となり、ただれやかゆみ、あせもなどに塗って使います。苦参のみの処方ということは苦参の本来の薬効を示していると考えられます。苦参湯の記録が残る最古の書籍は西暦200年ごろに書かれた『金匱要略(きんきようりゃく)』という漢方の古典で、「陰部が蝕まれる(ただれたり潰瘍になること)と、のどが乾く。苦参湯で洗えばよい」と記されています。
この苦参、なぜこのような名前を付けられたかというと、それはご想像の通り、苦いからです。しかもちょっとやそっとの苦みではありません。目が眩(くら)むほどの苦さです。ですから昔は眩草(くららぐさ)とか、苦辣(くらら)と呼ばれたそうです。つまり植物のクララという名は決して可愛らしい外来語などではありませんでした。
Natural Life No.136
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2024年6月号に掲載