漢方日記

薬になるシソ《NaturalLife137_’24.8》

暑い季節は冷たい食事が増えます。そんな時にショウガやネギ、ミョウガ、大葉などの薬味は欠かせませんね。風味をよくするだけでなく、体を冷やしすぎるのを防ぐ働きもあります。それぞれに独特の香りや味がありますが、なかでも大葉が個人的にはお気に入りです。

大葉は青ジソと呼んだり、単にシソと呼ぶこともありますね。しかしシソには梅干しを漬ける時などに用いる赤ジソもあり、漢字で書く紫蘇の文字からすれば、シソは本来赤ジソを意味するということが想像できます。

植物分類学からすると、シソには様々な品種があることが知られており、その基本種は赤紫色で葉に縮れのあるチリメンジソという種です。そのほか、縮れのないアカジソ、緑色のアオジソ、緑色で縮れのあるチリメンアオジソ、葉の表が緑で裏が赤紫のマダラジソやカタメンジソなどがあるとのことです。

10年ほど前に、庭にシソがびっしりと森のように生え茂ったことがありました。シソの旺盛な繁殖力と、草むしりを怠っていた自身の鈍感力に感心しつつ、よく見ると、単に赤と青という区別だけでなく、赤にも青にも数種類ずつが混在していることに気づき、当時中学生だった娘の自由研究の題材にしようということになりました。


写真①シソの森


写真②娘の自由研究から(中央の葉は裏が赤紫色)

シソは漢方の重要な生薬にもなります。用いられる種類は赤紫色で縮れのあるチリメンジソです。薬用部位となる葉と枝先は蘇葉(そよう)または紫蘇葉(しそよう)と呼ばれ、様々な処方に含まれます。また葉だけでなく、種子は蘇子(そし)または紫蘇子(しそし)と呼ばれ、喘息や気管支炎に使用する蘇子降気湯(そしこうきとう)などに含まれます。またシソの枝茎の部分を中国では蘇梗と表記し、蘇葉以上に使用されている印象があります。

蘇葉の薬効は穏やかな発汗作用、気の詰まりの緩和、魚蟹の解毒などとされ、感冒やストレス性疾患の治療にしばしば用いられます。蘇葉を含む処方の中で比較的有名な半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は梅核気(ばいかくき)とかヒステリー球などと呼ばれるのどの異物感の第一選択薬です。飲み込もうとしても飲み込めず、吐き出そうとしても吐き出せず、しかし飲食物を飲み込むときには邪魔にならないのどの異物感で、ストレスが原因とされています。また感冒で使われる参蘇飲(じんそいん)や香蘇散(こうそさん)、藿香正気散(かっこうしょうきさん)など、蘇葉を含む処方はお腹に優しく、気持ちを落ち安定させるものが多いです。蘇葉はやはり香りが大切です。乾燥させたものを用いますが、新鮮なほど品質が良いとされています。

Natural Life No.137
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2024年8月号に掲載