漢方日記

クコの実と漢方《NaturalLife138_’24.10》

アマトウガラシ、カラスナンバンなど唐辛子を連想させる呼称や、カワラホオズキ、キホオズキといったホオズキを連想させる呼称を別名(地域名)に持つクコは、秋に果実が赤く熟する東アジア原産の落葉低木です。唐辛子もホオズキも、そしてクコもナス科の植物です。クコは漢字では枸杞と表され、中国語ではゴウチーといった感じで発音されます。欧米に渡ったクコの実は、ゴジベリーと呼ばれるようになり、ビタミンやミネラルが豊富で健康や美容にいいスーパーフードとして人気を博し、日本にも逆輸入のように紹介されるようになりました。

もともと中国、朝鮮半島、そして日本各地に自生する植物です。クコの実は中国では古来、食材や薬草として利用されてきました。日本でも古くから薬草とされているのですが、一般には中華料理店で見かけるほか、スーパーなどで手にすることが出来ます。漢方薬局では枸杞子(くこし)という生薬名で医薬品として流通する、歴とした薬草です。また実だけでなく、葉は枸杞葉(くこよう)、根は地骨皮(じこっぴ)という呼称でそれぞれ生薬となります。

中国医学の教科書によれば、枸杞子は肝・腎を補い、目を養い、肺を潤すとされています。目の症状の改善に用いられることが多く、また肝は血を蓄え、腎は精を蓄えるといわれることから、強壮薬として用いられることもあります。地骨皮は体の消耗によるほてりを改善するとされています。枸杞葉についてもほてりを緩和し、体を補う働きがあるとされています。

枸杞子を含む代表処方には杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)があり、疲れ目、かすみ目、視力低下などに用いられます。枸杞子以外にも目に良いとされる菊の花が含まれており、飲む目薬とも呼ばれています。地骨皮を含む処方には、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)や滋陰至宝湯(じいんしほうとう)があります。どちらも体を潤してほてりを緩和する働きがあり、前者はとくに精神的なたかぶりやそれに伴う排尿困難に用いられ、後者は慢性のせきなどに応用されます。

これらのものを摂取する際に、注意点があります。枸杞子すなわちクコの実は、お腹を下しやすい人には不向きです。より一層下しやすくなる恐れがありますので、摂取の仕方や量に注意が必要です。たまに食べる中華料理に少量入っている程度なら心配ないでしょう。また枸杞葉や地骨皮は体の熱を冷ます働きがあるため、逆に体が冷えている人はやはり注意しなくてはなりません。方剤を服用する場合には、専門家によくご相談ください。

 

杏仁豆腐に添えられたクコの実

Natural Life No.138
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2024年10月号に掲載

 

執筆者情報

毛塚 重行

研究報告・講演等

翻訳

    東洋学術出版社『中医臨床』

  • 小児疾患と湿熱の関係
    (中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英)
  • 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍)
  • 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
    (中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧)
  • 解表剤運用の心得
    (中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠)
  • 中医による難治性眼疾患の治療効果
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院)
  • 眼科領域における退翳明目法の応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉)
  • 「明珠飲」による内眼疾患の治療
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?)
  • 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄)
  • 明目地黄丸および益精昇陰法
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他)
  • 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他)
  • 眼科領域における細辛の臨床応用
    (中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛)
  • 慢性前立腺炎の治療
    (中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福)
  • 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
    (中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他)
  • 糖尿病性腎症の4大病機
    (中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧)
  • 「気」の中医的概念と理気の方薬
    (中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦)
  • 「辛開苦降」の意味
    (中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武)
  • 「風薬治血」-風薬による血病治療
    (中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶)
  • 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
    (中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌)
  • 補陽還五湯の応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華)
  • 黄耆の運用経験
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春)
  • 黄耆の医案3例
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌)
  • 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
    (中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸)
  • 応用範囲の広い温胆湯
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南)
  • 温胆湯の症例報告
    (中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)

薬剤師・薬学修士・国際中医専門員

Shigeyuki Kezuka

学歴
東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002)
職歴
吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 )
所属
日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会