漢方日記

寒い季節のカゼ漢方《NaturalLife139_2024年12月》

冬場のカゼは、ゾクゾクとするさむけから始まることが多いです。さらに発熱や鼻水、咳、たんなどを伴います。カゼに用いる漢方薬といえば葛根湯(かっこんとう)が有名ですが、実際には様々な選択肢があります。さむけから始まるカゼの漢方薬でよく市販されているものに、葛根湯や小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄湯(まおうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)などがあります。これらの違いを見てゆきたいと思います。

葛根湯の説明書上の効能・効果は次の通りです。「体力中等度以上のものの次の諸症:感冒の初期(汗をかいていないもの)、鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み」。麻黄湯の場合は「体力充実して、かぜのひきはじめで、さむけがして発熱、頭痛があり、咳が出て身体の節々が痛く汗が出ていないものの次の諸症:感冒、鼻かぜ、気管支炎、鼻づまり」とされ、使用上の注意として「身体虚弱の人は使用しないこと」とあります。この2処方はさむけのあるカゼの初期に適します。「汗をかいていない」とありますが、これは漢方では重要なチェックポイントです。カゼをひくと体はウイルスと戦うために汗腺を閉め、身を震わせて体温を上昇させます。もし汗が漏れてしまうと、体温が上げられません。戦いが済んでから発汗すれば、体温が下がり、治癒に至ります。葛根湯や麻黄湯はまさに体温を上げる力を助けてくれるのです。汗腺が開いている状態で服用してしまうと、必要以上の発汗が生じて体力が奪われます。ですから発汗のある人、虚弱な人には不向きです。さらにカゼの初期を過ぎている人にも使用すべきでなく、漫然と飲み続けてはいけません。

次に小青竜湯の効能・効果を見ると「体力中等度又はやや虚弱で、うすい水様のたんを伴う咳や鼻水が出るものの次の諸症:気管支炎、気管支ぜんそく、鼻炎、アレルギー性鼻炎、むくみ、感冒、花粉症」。麻黄附子細辛湯では「体力虚弱で、手足に冷えがあり、ときに悪寒があるものの次の諸症:感冒、アレルギー性鼻炎、気管支炎、気管支喘息、神経痛」とあります。この2処方は、花粉症の漢方薬という印象をお持ちの方もおられるかもしれません。もともとはカゼに用いられる処方で、虚弱な人にも使用できることになっています。ただし体を温める処方であることには違いなく、発汗過多の傾向がある場合には注意が必要です。小青竜湯の場合は水様の鼻水やたんが使用目標となり、麻黄附子細辛湯はもともと冷え性で虚弱の傾向の方に用いられます。

以上の4処方に共通する生薬が麻黄です。麻黄は体を温め発汗を促し、気管を拡張して咳やぜんそくを緩和します。ただし使用過多ではのぼせや動悸を引き起こします。ですから本当に虚弱な方では小青竜湯や麻黄附子細辛湯でも強い場合があります。そのような時には桂枝湯(けいしとう)や桂枝加葛根湯(けいしかかっこんとう)といった市販の漢方薬がありますが、これらは流通量が少ないのが難点です。

市販の漢方薬とはいえ、安易に使用できるわけではありませんので、迷ったときには専門家にご相談ください。

写真:マオウ科シナマオウ 茎が生薬の麻黄となる

Natural Life No.139
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2024年12月号に掲載