漢方日記

アブラナ科の野菜と生薬《NaturalLife141_2025年4月》

春の風景といってまず思いつくのが満開の桜でしょう。青い空のもと、立ち並ぶ満開の桜の樹々、そしてその下に黄色の菜の花が絨毯のごとく広がっていれば絶好のシャッターチャンスです。

この菜の花ですが、特定の植物種を指すのではなく、アブラナ科の中のアブラナ属に分類される花の総称とされています。代表的なのはアブラナとセイヨウアブラナです。菜の花はお浸しや辛子和えなどで食すと季節感があり、ほのかな苦みが美味です。また種子は菜種油の原料になります。

ほかにもアブラナ属にはハクサイ、キャベツ、ミズナ、カブ、ノザワナ、コマツナ、チンゲンサイ、カラシナ、ブロッコリー、カリフラワーなどの野菜が含まれます。さらにアブラナ科の他の属にはダイコンやワサビ、クレソン等々も存在します。それぞれ独特な風味や食感、栄養素があり、私たちの食生活を豊かにしてくれています。

辛子和えはもちろんおでんや納豆に欠かせない辛子(芥子)は、カラシナの種子が原料です。このカラシナの種子は漢方でも用いられ、白芥子(はくがいし)という生薬名を持っています。中国では白芥子を去たん作用や止痛作用をもつ生薬として呼吸器疾患や神経痛などに用いますが、日本の漢方製剤を見ると白芥子を含むものは一つしかありません。神経痛、関節痛、筋肉痛に有効な清湿化痰湯(せいしつけたんとう)という処方です。使用頻度も低いのでめったにご紹介することのない処方です。

ダイコンの種子は莱服子(らいふくし)という生薬になり、中国では消化促進や去たんの目的で用います。これも日本ではあまり用いられませんが、逆に日本人が大好きで消化に良い大根おろしは中国で見たことがありません。

子供の頃ぺんぺん草と呼んで遊んだナズナもアブラナ科です。それに似たマメグンバイナズナやヒメグンバイナズナという外来の植物があり、種子が葶藶子(ていれきし)という生薬になります。漢方の有名な古典に葶藶大棗瀉肺湯(ていれきたいそうしゃはいとう)という処方で出てくるのですが、この処方も今の日本の漢方製剤には登場しません。

かぜやインフルエンザの季節に漢方ハーブとして最近流行の板藍根(ばんらんこん)は、アブラナ科ホソバタイセイの根です。板藍根のお茶でうがいをしたり、板藍根入りのど飴の利用などがしばしばSNSで話題になっているようです。日本での板藍根はあくまで食品として流通していますので、正式な漢方治療とはいえませんが、アブラナ科の薬草としては最も流通しているかもしれません。
ホソバタイセイ(写真:ホソバタイセイ)

以上のように日本の漢方では影の薄いアブラナ科ですが、食材として大いに楽しみましょう。

Natural Life No.141
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2025年4月号に掲載