漢方の生薬養生・食養生
茶-薬食同源の代表格《NaturalLife142_2025年6月》
私たちの生活に欠かせないお茶。茶葉はツバキ科のチャノキの葉です。チャノキの原産地はインド、ベトナム、中国南西部などとされています。中国では石器時代から食されていたそうで、大昔は生の茶葉をそのまま食べていたようです。浙江省では約六千年前の地層から世界最古の茶畑とみられる遺構が発見されています。茶を煎じて飲むようになったのは唐の時代だそうで、760年頃に書かれた『茶経』には、当時の茶の歴史や産地、煮方、飲み方、飲む際の心構えなど、事細かに当時の茶文化が記されています。この時代、僧侶たちを中心に茶が広まったこともあって、徳のある人に適した飲み物とされるようになり、茶道精神につながる哲学も生まれたことが『茶経』に読み取れます。日本への茶の伝来にも、遣唐使として中国へ行き来した僧侶たちの恩恵が大きいといわれています。
また茶に関する記載は数々の医薬や養生の書籍に記載されています。漢方界に伝わる伝説にも登場します。医薬と農業の神である神農は、薬草を調べるために日々多くの毒に当たりました。大毒で倒れたある日、茶のしずくを口にして九死に一生を得たとのことです。
臨済宗の宗祖である栄西(1141-1215)は『喫茶養生記』を著し、その冒頭に「茶は養生の仙薬なり、延齢の妙術なり」と残しています。
現代の中国の生薬辞典にも「頭と目を清める、煩渇を除く(口やのどの激しい渇きを癒やす)、痰を化す(たんを分解する)、食を消す(消化を助ける)、利尿する、解毒する」といった効能が挙げられています。
医薬書においては、茶は苦くて体を冷やすものとされています。とくに緑茶は体を冷やし、ほうじ茶や発酵を経た紅茶、プーアル茶などは体を温めるという認識をお持ちの方も少なくないと思います。緑茶の苦みや体を冷やす性質は、前出の茶葉の効能に大きく関わります。茶葉を取り入れた漢方処方も存在します。現在日本で流通する漢方製剤の中には、川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)や滋腎明目湯(じじんめいもくとう)があります。川芎茶調散はカゼの時の頭痛に用いる処方で、血行不良やストレスなどが原因の頭痛にも効果があるとされます。滋腎明目湯は加齢や疲労、貧血などのある人の目の炎症に用います。
これらの効能に関連する成分の一つとして、カフェインが考えられます。カフェインそのものには覚醒作用、解熱鎮痛作用、強心作用、利尿作用などがあり、お茶として楽しむ際には気になる方もおられるかと思います。確かに摂取する量や時間については配慮をした方がよいと思います。ただ、ほかにもポリフェノールやビタミンCなど様々な有用成分を含み、健康効果も報告されています。神農を救ったほどの解毒効果を期待してはいけませんが、有効に活用したいものです。加工の仕方によっては、カフェインの少ないものや体を冷やさないものもありますので、飲用する季節、時間、体調などに合わせて楽しめば、薬食同源を体現することができるでしょう。
参考文献:『喫茶の歴史』岩間眞知子著/大修館書店
『薬膳茶のすべて』辰巳洋著/緑書房
『中薬大辞典』江蘇新医学院編/上海科学技術出版社
Natural Life No.142
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2025年6月号に掲載