漢方の方剤漢方の生薬
火薬と医薬《NaturalLife149_2026年8月》
夏の風物詩の花火。夜空を彩る大輪の花火も、近しい人たちとの手持ち花火も、暑さや嫌なことを忘れ、純粋な感動に浸れる時間です。
花火に欠かせない火薬は、硝石(しょうせき)、硫黄(いおう)、木炭を原料としています。この組み合わせが火薬となることは、古くは西暦850年ごろの中国唐代の書物に見られ、それは不老長寿の物探求をしていた煉丹術師の、研究中の発見であったことが知られています。古来硝石や硫黄は薬物として認識されていたのです。硝石は化学的に硝酸カリウムと呼ばれるもので、窒素(N)と酸素(O)とカリウム(K)が結びついた物質です。
19世紀に入ると、さらに強力な爆薬となるニトログリセリンが合成されました。スウェーデンのアルフレッド・ノーベルはそれを原料にダイナマイトを開発します。ニトログリセリンと硝石はともに窒素(N)と酸素(O)を含んでいます。ニトログリセリンの合成には硝酸が必要で、当時、硝酸は硝石を原料に作られていました。
ニトログリセリンは体内で血管を拡張させる働きがあり、狭心症の発作を緩和する薬としても有名です。ニトログリセリンは非常に不安定な物質で、小さな衝撃でも爆発を起こすのですが、医薬品とする際には、爆発を起こさないように加工されていますので、ご安心ください。ノーベルも晩年、狭心症を患い、ニトログリセリンを使用していたようです。のちにこの薬効はニトログリセリンが体内で分解されて生じる一酸化窒素(NO)による血管拡張であることが解明され、この研究に携わった科学者たちはノーベル賞を受賞しています。
ところでこの一酸化窒素はもともと体内に存在する物質です。血管の中では血管内皮細胞という細胞から分泌され、血管の筋肉を弛緩し、血管を拡張させ、血流量が増えます。ちなみに発毛剤のミノキシジルという成分が頭皮の毛細血管の血流量を増やしたり、バイアグラが陰茎に作用したりするのも、一酸化窒素による血管拡張が関与します。ただし、ミノキシジルやバイアグラはニトログリセリンのように直接一酸化窒素の原料を供給する物質ではなく、血管内皮細胞が一酸化窒素を分泌する作用を促進させているのです。
実は漢方薬の中でも、血行改善に役立つ生薬の丹参(たんじん)や川芎(せんきゅう)、処方の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や冠元顆粒(かんげんかりゅう)などで、血管内皮細胞における同様の作用を有することがわかっています。
1970年代の中国で心疾患の治療薬として丹参を中心とした処方が苦労の末創成された実話をもとに、『丹心譜』という物語が作られ、映画や演劇にもなりました。丹心は真心や忠誠心を意味しますが、丹参の丹(赤色の一種)や心疾患との関連もあってのことでしょう。
窒素も酸素も身近な物ですが、結びつきには様々な条件を要し、危険性や副作用も伴います。火薬も医薬品も指示通りに使いましょう。

写真1:サルビアの仲間。シソ科タンジン
2023年国際医療福祉大学大田原キャンパスにて

写真2:生薬の丹参(タンジンの根を乾燥したもの)
2017年四川省成都 荷花池生薬市場にて
Natural Life No.149
(株)エーエスエーとちぎ中央発行『らいとプラザ』2026年8月号に掲載
執筆者情報

研究報告・講演等
翻訳
- 小児疾患と湿熱の関係
(中医臨床第107号2006年12月20日 「略論湿熱在中医児科発病学上的意義」浙江省中医薬研究院 王英) - 卵管閉塞による不妊36例に対する中西医結合治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
(中医臨床第102号2005年9月20日 「試析石斛夜光丸方」北京中医薬大学東直門医院眼科 祁宝玉他) - 眼科領域における細辛の臨床応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
(中医臨床第101号2005年6月20日 「中西医結合治療慢性前立腺炎的思路与方法」福建中医学院 戴春福) - 益気養陰清熱法を併用した急性骨髄性白血病の治療中医臨床
(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
(中医臨床第99号2005年3月20日 「糖尿病腎病腎小球硬化症的中医病機探討」上海中医薬大学付属龍華医院 劉玉寧) - 「気」の中医的概念と理気の方薬
(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
(中医臨床第92号2003年3月20日 「辛開苦降」河北省浹水県医院中医科 劉興武) - 「風薬治血」-風薬による血病治療
(中医臨床第91号2002年12月20日 「風薬治血探微」瀘州医学院付属中医院 鄭国慶) - 老中医たちがもっとも得意とする生薬…それが黄耆
(中医臨床第89号2002年6月20日 南京中医薬大学 黄煌) - 補陽還五湯の応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「補陽還五湯治験2則」江蘇省常熟市中医院 李葆華) - 黄耆の運用経験
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆的応用体会」南京中医薬大学 孟景春) - 黄耆の医案3例
(中医臨床第89号2002年6月20日 「黄耆医案3則」南京中医薬大学 黄煌) - 防已黄耆湯の解釈と臨床応用
(中医臨床第89号2002年6月20日 「防已黄耆湯」南京中医薬大学 蒋明・張国鐸) - 応用範囲の広い温胆湯
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的臨床応用」江蘇省連雲港市中医院 趙化南) - 温胆湯の症例報告
(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)
毛塚薬局勤務(2002~2005)
さくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)
国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
