漢方日記

秋の気だるさ《NaturalLife37_’13.10》

漢方の世界には「春は眠く、秋は気だるい」という言葉があります。思い当たる方も少なくないのではないでしょうか。秋は倦怠感や憂鬱な気持ちを感じやすい季節であることが、大昔から認識されていたといえます。そういえば秋に心で「愁」という字ができますね。愁いです。心が晴れずもの悲しい思いと辞書にあります。

古来漢方では秋の外界には「燥」すなわち乾燥の気が多く、心身に悪影響を与える邪気となることがあると考えます。この燥邪(そうじゃ)が体内に侵入すると、水分や栄養を消耗してしまうために、心身の倦怠感が生じます。また、喘息など呼吸器系の疾患が現れやすいのも同じ理由です。

とくにここ数年、夏の異常な猛暑によるダメージを多くの方が受けていらっしゃると考えられます。大量の発汗や食欲不振による栄養不足、冷飲食による胃腸障害、また冷房による自律神経の乱れなどです。これらの回復が遅れてしまえば、秋の邪気は容易に体に入り込むことになってしまいます。

つまり「気だるさ」とはいっても単に精神的なケアだけでなく、肉体的にも補っていく必要があるといえるでしょう。

対策を考える上で最も重要なことは養生です。まず考えたいのは睡眠です。夜間の睡眠によって体の回復を図ることは大変重要です。秋の夜長を楽しむのはほどほどにして、早寝早起きを心がけたいものです。

次に食事ですが、大根、蓮根、ごぼう、百合根、山いもなどの根菜類は体を養う作用に優れます。またキノコ類や果物も体を潤します。注意したいのは体を冷やさないようにすることです。なるべく温かい状態のものを食べることが心身のケアに役立ちます。秋の果物である柿や梨などは潤す作用に優れますが、同時に体を冷やしてしまいます。水をたくさん飲むということも同様なのですが、一度に水分を摂取することはどんなに体が乾燥していても処理能力を超えてしまい、尿としてすぐ排泄されるか、あるいは胃もたれや下痢の原因となる可能性があり、また冷え症の方ではその冷えを助長する恐れもあります。冷えの有無や、消化器系、泌尿器系の状態を考え、秋の味覚を楽しみつつ、各々のほどほどを考えましょう。