漢方の生薬
竜骨と漢方《NaturalLife99_’19.6》
漢方では竜骨(りゅうこつ)という生薬をしばしば用います。竜はもちろん想像上の生き物ですが、古い文献には「土穴中の竜の死んだ所にある」などとあり、考古学が進んでいなかった100余年ほど前までは、実際に竜の骨だと信じられていました。現在ではナウマンゾウや牛、馬、鹿などの大型の哺乳動物の化石であることが分かっています。
約2000年前には竜骨は常用される生薬として認識されています。その生薬である竜骨が関わった歴史的なエピソードがあります。
19世紀末の中国北京、ある学者がマラリアを患い薬屋で竜骨を買い求めます。その竜骨をよく見ると文字らしきものが刻まれていました。学者は青銅器や石に刻まれた古い文字の学問に詳しかったため、竜骨の文字にも興味を抱き、文字のある竜骨を北京中の薬屋から買い集めて研究をし、甲骨文字の発見につながります。この甲骨文字が刻まれていた竜骨は、実際には亀の腹側の甲板や牛の肩甲骨であり、このことが甲骨文字という名称の由来になっています。
その後、甲骨文字は古代王朝で行われた占いの趣旨を刻んだものと分かり、甲骨を火であぶって出来た亀裂で吉凶を占った文化が明らかになります。さらに、架空の王朝と思われていた殷王朝(司馬遷によって書かれた中国最古の歴史書『史記』に記載されている)が実在したことも証明されることになったのです。
一般的に竜骨は鎮静作用や収れん作用を期待して用いられます。鎮静作用という点では、興奮や驚きやすい、動悸、不眠、不安感などの症状に対応します。また収れん作用は、分泌物が過多の場合に適応し、多汗、頻尿、夜尿、不正出血、下痢、夢精等の症状の改善が目的となります。ただし動悸一つをとっても、その原因は様々ですから、その症状があれば必ず用いるということではありません。
代表的な処方には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)があります。前者は比較的体力があり、血圧が高めの体質に多用され、後者は体力が中等度以下で神経過敏な体質に向いています。
古来、竜は神聖、高貴、幸運、力強さなどの象徴で、竜骨には霊的な力があるともされてきました。竜の体の一部を取り入れたと考えただけで、特別な効力を得られた気持ちになるのかもしれません。
写真:中国の生薬市場に並ぶ竜骨
(
は竜骨の中国語表記)
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研究報告・講演等
翻訳
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(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
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(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
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(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
