漢方日記

海産物の薬用利用《NaturalLife101_’19.8》

7月の第三月曜日、今年でいえば15日は国民の祝日、海の日です。1996年から施行され、海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う日とされてるとのことです。

漢方で用いられる生薬は、草根木皮などと言われるように陸地の植物を由来とするものが多いのですが、中には海産物を利用しているものも存在します。

とくに重要な生薬に、カキの貝殻である牡蛎(ぼれい)があります。自律神経の興奮を抑える柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、胃痛に用いる安中散(あんちゅうさん)などに含まれます。カキの身の方は漢方処方に配合されることはありませんが、中国の生薬書ではしばしば牡蛎肉(ぼれいにく)の名で登場し、その薬効が述べられています。主には気(気力、体力、免疫力など)を増し、血を補い、心を落ち着かせて不眠や不安を改善するとあります。

貝の類いではアワビやハマグリの貝殻、真珠なども古くから薬用利用されている記録がありますが、現在日本の漢方製剤にそれらを含むことはなく、健康食品などで活用されているのを見かけます。

私が働き始めた頃、快胃片(かいいへん)という漢方薬がありました。中身は烏賊骨(うぞっこつ)と延胡索(えんごさく)という二種類の生薬で、胃痛によく効くものでした。延胡索は鎮痛作用のある生薬として幅広く使われる植物性の生薬です。一方、烏賊骨の烏賊はイカのことで、つまりイカの骨を意味する生薬名です。しかし骨は脊椎動物に存在する組織であり、イカには骨がありません。ところがイカの中でも体が寸胴なコウイカの仲間には内部に骨状の構造体があり、これを薬用とするのです。この構造体は骨ではなく、なんと貝殻の痕跡だそうです。

タツノオトシゴは体を滋養したり、温めたりするのに優れた生薬になります。生薬名は海馬(かいば・かいま)で代表処方には海馬補腎丸(かいまほじんがん)や参馬補腎丸(じんばほじんがん)などがあります。

このほかにも多種の海産物由来の生薬が知られています。実際に日本で薬用として流通しているのは限られたごく一部ですが、魚介類や海藻の多くが体にいいことは周知のことです。栃木県は海無し県ですが、その恩恵にあずかることは大変多いですから、感謝の気持ちを持たなければいけませんね。

海馬

海馬(中国の生薬市場にて)