甘い良薬

『良薬は口に苦し』この言葉の出典を調べてみますと、孔子の言行等を集めたとされる『孔子家語(こうしけご)』に遡ります。本来、耳に痛い忠告は後々我が身のためになることを喩えた言葉とのことですが、現況では苦い薬を飲まなければならない時の励ましや諦めの表現として使われている気がします。薬屋としてはこの言葉のお陰で、苦い薬も勧めやすくなっている面があるかもしれません。また一方で「漢方薬は苦い」「苦くない薬は効かない」という印象を生んでしまっている気もします。

実際、漢方薬には苦いものもありますが、甘いもの、酸っぱいもの、辛いものなど、多種多様です。甘い処方の中には、その甘さが飴や蜂蜜に由来するものがあります。漢方で使われる飴は、膠飴(こうい)という生薬名で医薬品として流通しています。膠飴は穀類やイモ類のデンプンを、麦芽汁に含まれる酵素を利用して糖とし、どろどろの水飴または丸く固めた飴玉の形で利用します。

膠飴を含む処方には小建中湯(しょうけんちゅうとう)や大建中湯(だいけんちゅうとう)などがあります。これらはまず膠飴以外の生薬を煎じて作った薬液に膠飴を溶かします。大建中湯は腹が冷えて痛むときに用いられ、小建中湯は虚弱者の腹痛や、小児の諸症状の改善に用いられます。

蜂蜜を含む漢方処方では桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や八味地黄丸(はちみじおうがん)などが有名です。これらはいずれも丸剤と呼ばれる団子状の薬であることが特徴です。丸剤の作り方は蜂蜜以外の生薬をすりつぶして粉末状にしたところへ蜂蜜を混ぜてよく練り、1丸ずつの大きさに切って丸めます。蜂蜜は結合材の役割をしており、米糊などを結合材にする丸剤もあります。

甘みの強い生薬である甘草(かんぞう)は7割もの漢方処方に含まれます。ほとんどは甘草の量が少なく、あまり甘くありませんが、甘草を多く含む甘草湯(かんぞうとう)、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)などは非常に甘い処方です。

その他にも甘い生薬は多数あります。それぞれに特徴がありますが、概ね甘味生薬は、胃腸を整える、諸薬を調和する、急な痛みを緩和するといった働きがあるとされます。

もし服用した漢方薬が苦くなくても、良薬でないということではありませんので、ご安心ください。

米と麦芽から作られた膠飴。重さ1個10g