夏の病『霍乱(かくらん)』

普段は病気知らずの元気な方でも突然病に伏すことがあります。このような状況をたとえた「鬼の霍乱」という表現があります。

霍乱という言葉は、現在では暑気あたり・熱射病などをさして使われることもあるようですが、本来は強い吐き気と下痢を特徴とする中国古来の病名です。霍は速やかなことを意味し、症状が急激に起こる様子を表しています。霍乱は食中毒や感染症、急冷などによる急性胃腸炎が相当しますが、中国の現代医学では特にコレラを意味する言葉となっています。

伝統医学の教科書では、霍乱は夏・秋に多発する病で、その原因は蒸し暑い昼間の状況や、逆に夜になって冷めた外気、秋の移りゆく空気などが邪気となって胃腸を傷つけたり、あるいは不潔なものや腐ったものを飲食することで発症するとされています。

いずれにしても原因は外からやってくるものです。その原因が冷たいものによるのか、そうでないのか、あるいは患者が寒がっているか、暑がっているかによって治療が異なります。

冷たい飲食や冷気に当たって生じた吐き気・下痢には藿香正気散(かっこうしょうきさん)が基本処方とされます。けがれた邪気を追い出す働きがあります。寒気が強い場合には、体を温める人参(にんじん)や附子(ぶし)などを用います。ちなみに藿香正気散の中心生薬である藿香の藿は草冠に霍乱の霍を書きますが、とくに霍乱の治療に用いることを示唆しているわけではありません。藿はもともと豆の葉を意味し、また藿香はシソ科の植物で、パチョリというハーブとしても知られています。

患者が熱感を覚える場合は、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)などを応用します。熱毒を解毒する黄連(おうれん)や黄芩(おうごん)、吐き気を抑える半夏(はんげ)などを含みます。

蒸し暑い夏はもともと胃腸が疲れやすい季節です。食べやすい冷飲食や辛い飲食も過剰では胃腸を傷つけます。梅干し、しょうが、わさび、しそなどは、胃腸の働きを整え、また抗菌作用もありますので、上手に利用したいところです。

ところで霍乱は夏の季語となっています。次のような俳句がありました。
「 霍乱や一糸もつけず大男」村上鬼城
「かくらんやまぶた凹みて寝入る母」杉田久女

鬼でさえ伏してしまう霍乱。夏の空調の調整や飲食の注意、食中毒の予防など、油断なきようにいたしましょう。