漢方日記

角(つの)の薬用利用の功罪《NaturalLife104_’19.12》

子供の頃、クリスマスソングを集めたレコード盤が家にあり、中でも「赤鼻のトナカイ」がお気に入りでした。心温まる歌詞も曲調も好きでした。赤い鼻で愛嬌がありつつも、勇壮な角を持つトナカイを想像して楽しんでいました。

時を経て私が社会人になりたての頃、就職した薬局でトナカイの角エキスが入った健康食品を見つけました。調べてみると、トナカイの角には強壮作用があり、トナカイの生息する北欧では古くから用いられてきたとのことでした。

漢方では鹿の角がしばしば用いられます。おもに中国のマンシュウジカなどが利用されます。トナカイやマンシュウジカなど、鹿の仲間は角が毎年生え替わります。マンシュウジカの場合、春に角が脱落し、その後新しい角が急速に生長し始めます。生え始めの角は産毛に覆われキノコのように見えるため、鹿茸(ろくじょう)と呼ばれます。強い生命力を秘め、優れた強壮作用や温陽作用があり、薬用人参とともに高貴薬の双璧をなすとも言われてきました。また伸びきった角も、鹿茸には及ばないまでも、同様の作用があるとして、鹿角(ろっかく)の名称で流通しています。

鹿茸・鹿角のほかに漢方で使用されてきた動物の角には、サイの角である犀角(さいかく)やレイヨウなどの角である羚羊角(れいようかく)などがあります。レイヨウは牛の仲間で、角は生え替わりません。犀角や羚羊角には解熱作用があり、温陽作用を有する鹿茸・鹿角とは対照的です。ただ、残念なことにサイやレイヨウは絶滅を危惧されています。そのため流通が制限されおり、緊急性の高いサイの角は完全に取引を禁止されて久しくなりますが、それでも密猟が続いていると聞きます。また羚羊角も間もなく日本の市場から姿を消していく見通しです。羚羊角がなくなったときにどのように症状に対応するか、漢方家や漢方メーカーが今いろいろと検討しています。

動物由来の生薬は概ね効果が高く、これによって多くの人々が助けられてきましたが、高価な取引の対象となりやすく、ゆえに乱獲や、さらには種の減少を招いたとすると複雑な思いで心が大変痛みます。

漢方には自然の調和を旨とする思想があります。自然界のバランスを崩してまで利己的であろうとすれば、必ずやしっぺ返しがあることでしょう。サンタクロースのように動物にも優しく、自然にも優しくありたいものです。

中国成都市の鹿茸専門店