季節・天候と漢方
今年の夏の疲れ《NaturalLife113_’20.9》
今年の夏は、長めの梅雨が開けて急激に猛暑となり、そしてコロナ禍の影響もあって、心身ともにだるさや違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。これから先も残暑や台風等による体への影響、さらには終息の見えないコロナ禍への不安も続きます。様々なことが心身に影響するわけですが、体質によって症状や悪化要因は異なりますので、体調不良の原因を考えることがその対処に役立ちます。
猛暑で発汗が多いと、体力や栄養、水分の消耗が過多となります。胃腸の機能も低下すると栄養吸収もままならず、日々の疲れが蓄積していきます。このようなときはできるだけ休息をとり、消化のよい食事を心がけましょう。冷飲食は余計に胃腸の働きを低下させる恐れがあるので控えめが良いでしょう。漢方薬では気力・体力や潤いを補い、体のほてりを鎮める清暑益気湯(せいしょえっきとう)や生脈散(しょうみゃくさん)が用いられます。これらの処方には有名な朝鮮人参や、体を潤す麦門冬(ばくもんどう)などが含まれます。
冷飲食は上述の通り胃腸の働きを低下させることがあります。それによって生じた食欲不振、軟便、下痢、腹痛などには、お腹を温めることが必要です。腹巻きや、お腹の上を手で優しくマッサージをすることなどが有効です。食事ではショウガなどを利用すると良いでしょう。漢方薬でもショウガを利用した人参湯(にんじんとう)や、胃腸の吸収力を助ける五苓散(ごれいさん)、藿香正気散(かっこうしょうきさん)などが用いられます。
猛暑と冷房との気温差の影響で体温の調節がうまくいかないと感じる方も多くいらっしゃいます。自律神経の乱れによるものと考えられます。基本的な体力が低下していると、そのような状況になりやすい傾向があるように思われます。できるだけ規則正しく、バランスの良い生活習慣や食事、軽い運動などを心がけることが大切です。漢方薬では心身のバランスを調える柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)や桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが用いられます。
コロナ禍で問題になるのは、遠出を控えることや不安などから生じる精神的ストレスです。精神的ストレスも自律神経を乱します。また秋口には心の不安感や、喘息発作などをうったえる方が増加しますが、これらも自律神経との関わりが考えられます。このような状況にも前出の心身のバランスを調える処方が選択肢となります。さらにめまいや頭痛などを伴う場合には半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)が用いられ、生理不順などに影響する場合には逍遙散(しょうようさん)などが有効です。
以上のように体調不良の原因を考えることは大切なのですが、完全に原因を特定することは容易ではありません。あまり神経質にならず、自分の生活や食事の傾向のアンバランスを是正することから始めてみるのがよいでしょう。
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研究報告・講演等
翻訳
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(中医臨床第105号2006年6月20日 「中西医結合治療輸卵管阻塞性不妊症36例臨床観察」 劉軍) - 加味玉屏風湯による抗精子抗体陽性の女性患者57例の治療
(中医臨床第105号2006年6月20日 「加味玉屏風湯治療女性抗精子抗体陽性57例」広東省仏山市第一人民病院 謝普練 韓慧) - 解表剤運用の心得
(中医臨床第103号2005年12月20日 「解表剤運用心法」北京中医薬大学薬学系 倪誠) - 中医による難治性眼疾患の治療効果
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中医薬治療疑難眼病的療効簡介」中国中医研究院眼科医院) - 眼科領域における退翳明目法の応用
(中医臨床第102号2005年9月20日 「退翳明目在眼科的応用」山東中医薬大学付属医院眼科 郭承偉) - 「明珠飲」による内眼疾患の治療
(中医臨床第102号2005年9月20日 「中薬明珠飲治療内眼病挙隅」上海中医薬大学付属曙光医院眼科 潘雅?) - 名医の処方-疏肝解鬱益陰湯
(中医臨床第102号2005年9月20日 「疏肝解鬱益陰湯」河北省人民医院眼科 ?賛襄) - 明目地黄丸および益精昇陰法
(中医臨床第102号2005年9月20日 「明目地黄丸考証及応用-兼論益精昇陰法(二)」中国中医研究院眼科医院 高健生他) - 眼疾患に有用な方剤/石斛夜行丸方
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(中医臨床第102号2005年9月20日 「細辛在眼科臨床的応用」湖北省襄樊職業技術学院医学分院 汪碧涛) - 慢性前立腺炎の治療
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(中医臨床第100号2005年3月20日 「益気養陰清熱法輔助治療急性髄系白血病臨床療効観察」山東中医薬大学付属医院 徐瑞栄他) - 糖尿病性腎症の4大病機
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(中医臨床第93号2003年6月20日 「緒論:中医的『気』与理気方薬」北京中医薬大学 王琦) - 「辛開苦降」の意味
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(中医臨床第88号2002年3月20日 「温胆湯的症例報告」南京医科大学付属淮安第一医院 李樹年)
他
東洋学術出版社『中医臨床』
薬剤師・薬学修士・国際中医専門員
毛塚 重行Shigeyuki Kezuka
- 学歴
- 東京薬科大学薬学部薬学科卒業
金沢大学大学院薬学研究科(薬用植物園)修士課程修了
南京中医薬大学留学(2000~2002) - 職歴
- 吉祥寺東西薬局勤務(1996~2000)br毛塚薬局勤務(2002~2005)brさくら堂漢方薬局開設・ 運営(2005〜)br国際医療福祉大学薬学部非常勤講師(2020~2024)
獨協医科大学看護学部非常勤講師(2025〜 ) - 所属
- 日本中医薬学会
日本東洋医学会
日本中医薬研究会
栃木中医薬研究会
東亜医学協会
日本漢方連盟
日本薬剤師会
