漢方日記

気象病(低気圧不調・天気痛)の漢方的対策

気象病とは?

天気が曇りや雨など、崩れるにともなって、頭痛や関節痛、めまい、むくみ、だるさ、気分の落ち込みなどの症状が現れる方がおられます。人によっては、天気が崩れる数日前から症状が見られるといいます。梅雨時や台風の季節はとくに大変ですね。

これらの発症は、悪天候をもたらす低気圧が、人体の自律神経や血流、水分代謝などに影響して発生すると考えられています。

このように気象の要素(気圧、気温、湿度、晴雨、風など)から悪影響を受けて発生する心身の不調を「気象病」といいます。中でも低気圧によるものは「低気圧不調」、また痛みが症状の中心である場合には「天気痛」とも呼ばれます。

気象病発症のしくみ

低気圧が自律神経や血流、水分代謝に悪影響を及ぼすしくみは次のように考えられています。

自律神経は、無意識に行われる呼吸や拍動、消化などの生命活動をコントロールしています。活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経の二つから自律神経は成り立っています。自律神経は外界の変化や、感情の起伏、活動の強弱などに敏感に対応して、脈拍や呼吸などを調節し、様々な変化に体を順応させようとしています。

気圧の変化に最も敏感なのは耳です。山へ行ったり、飛行機に乗ったりした時に、耳が詰まって聞こえにくくなることがありますね。急な気圧の変化のために耳の中の圧力を調節する耳管の開閉がうまくいかなくなるためです。

耳の器官が過敏な人では、微細な気圧変化であっても過剰な変化として感知してしまい、神経や脳の興奮状態を引き起こし、その結果、脳の血管が拡張して頭痛が発生します。さらに影響が自律神経に影響が及ぶと、様々な不調の原因となります。

また低気圧不調では水分代謝の変調が大きく関わっているという見方もあります。人の体は約60%が水分で、水分は細胞内液、細胞外液、血液、リンパ液などの主成分として、バランスを維持しながら分布しています。何らかの原因でそのバランスが崩れると、むくみやめまい、吐き気、下痢などを発症します。気圧の変化は、外部から人体にかかる圧力が変化することであり、体内の水分分布にも影響が及んでバランスが乱れ、それがまた血流や自律神経に悪影響を及ぼします。

元々、体の対応力が万全であれば大事に至ることはありません。ところが、神経が過敏であったり、基礎疾患や疲労・ストレスなどの蓄積で神経も疲労をしていたり、あるいは古キズがあって、その部位の組織が元通りでなかったりすると、気象病の発生につながります。

気象病の漢方治療

もともと漢方では、降雨時の不調は体に水毒がたまっているためと捉え、利水作用のある方剤が多用されてきました。現代にいたって低気圧による症状は自律神経や水分のバランス、血流などが乱れたためと解明されましたが、その観点からも、利水作用のある方剤が有効であると考えられます。漢方における利水薬は、単に無理矢理水分を排出させるのではなく、体全体の水分バランスを整えるような働きがあると認識されています。また利水薬は血流量を変化させ、血管やリンパ管を安定させます。

漢方の利水薬には、五苓散(ごれいさん)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)が有名です。
※五苓散「効能・効果:体力に関わらず使用でき、のどが渇いて尿量が少ないもので、めまい、はきけ、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う、水様性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔い」
※苓桂朮甘湯「効能・効果:体力中等度で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:たちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏」
いずれも気象変化に起因する頭痛・めまい・むくみなどに多用されています。

また症状や体質よって、他の頭痛やめまいの方剤(半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、連珠飲(れんじゅいん)など)や、血流を改善する方剤、気持ちを落ち着かせる方剤などが有効な場合もありますので、専門家にご相談いただくことが大切です。
※半夏白朮天麻湯「効能・効果:体力中等度以下で、胃腸が弱く下肢が冷えるものの次の諸症:頭痛、頭重、立ちくらみ、めまい、蓄膿症」
※連珠飲「効能・効果:体力中等度又はやや虚弱で、ときにのぼせ、ふらつきがあるものの次の諸症:更年期障害、立ちくらみ、めまい、動悸、息切れ、貧血」

気象病の予防対策

前述の通り、神経過敏や基礎疾患、疲労・ストレスの蓄積、代謝の低下、古キズなどがあると、気象病・天気痛が発生しやすいといえます。心身を養い、自律神経のバランスを調えるように生活することが肝要です。

規則正しい生活習慣や旬の素材を利用したバランスのとれた食事が自律神経を整えるのに役立ちます。とくに睡眠時間をきちんと確保し、一日の心身の疲れを回復させることが重要です。また適度な運動をすることは、神経や筋肉の緊張をほぐして柔軟にし、血流をスムーズにします。たばこやお酒は血流や自律神経に悪影響を与え、睡眠の質を低下させるので、できるだけ控えた方がよいでしょう。

忙しい日々の中で理想的な生活を送ることは難しいかもしれません。可能なことから取り入れるのが良いと思います。それでも気になる不調があれば、漢方薬の利用をご検討下さい。

基礎疾患等がある場合は適切な治療が必要ですが、明らかな異常がないにもかかわらず何かすっきりしないような状態を漢方では未病といい、漢方ならではの対策法があります。未病の改善は自律神経のバランス改善にも通じ、気象病・天気痛の予防に役立ちます。

 

ストレス社会と呼ばれる昨今、気象病・低気圧不調・天気痛を自覚されている方は増えているように思われます。日々、心身の疲労回復を心がけ、気象の変化に負けない体づくりを目差しましょう。

(2022年9月5日)